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2014 年 4 月 22 日 1,100日前)
5,734文字 (読了時間14分)

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まったく関係ないニュースを2つ読んで、ふと昔読んだ本のことを思い出しました。一つは15歳男子の精通率急落 1981年の80%が2011年は50%に低下というニュース。もう一つは「プラトニック不倫」でも賠償命令…肉体関係「回避の努力」認めずというニュース。

前者は読んでそのまま、草食系男子という言葉がもはや一時の流行ではなくスタンダードになりつつあることの証左みたいなお知らせです。これはまあ、そうだろうなという印象ですね。

後者はタイトルと詳細がちょっと違っていて、男性側が女性に対して積極的にアプローチをかけていて、女性側はそれをやんわり交わしていたようです。とはいえ、一緒に遊びにいったりはしていたわけで、そういう行為の積み重なりが社会通念上、相当な男女の関係を超えたものと言わざるを得ないとなったとか。僕個人としては、男女の友達論に関して特に議論するつもりはないく、それに関して伝えたいことは「女友達の少ない女は地雷」ぐらいしかないんですが、性行為の有無という事実ではなく、「試みの段階でアウトと判定されたこと、しかも女の側が」という点興味深かったです。

僕はこれらのニュースを立て続けに読んで、「人類の自己家畜化は着実に進行しておる」と思ったわけですよ。マジで。

自己家畜化とは?

「自己家畜化」という言葉を知ったのは、森岡正博氏の『無痛文明論』という本を読んだからでした。「自己家畜化」自体は森岡氏の発明ではなく、欧米のどこかで発明された言葉だったと思うのですが、概念としては「人類はより安全で効率の良い生活を目指すために自らを家畜として管理している」と考え方です。

無痛文明論

無痛文明論 [書籍]

著者森岡 正博

出版社トランスビュー

出版日2003 年 10 月 16 日

商品カテゴリー単行本

ページ数451

ISBN4901510185

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この考え方自体は一つの物の見方でしかないので、「人類は堕落している、私が救わねば」とか、「狼は生きろ、豚は死ね」とか、そういった選民思想に直結するものではないのですが、森岡氏は自己家畜化を指摘しつつ、「文明はいかにして痛みを取り除くかという方向に向かっている、それには抗わなければならない」という論立てを進めていきます。いま手元にないので、完全にうろ覚えですが。

で、この本が面白いのは、無痛文明(つまり、自己家畜化を積極的に進めようと誘惑してくる文明)に抗う方法は何かというと、有効な方法がないことを認めているんですね。口語的に書くと「無痛文明ハンパない、誘惑限りない、でも超気をつけろ、マジで注意し続けろ」みたいな感じ。僕はわりとプラグマティックな人間なので、そういうことを言われると「それは無理だから諦めるわ」と白旗を上げてしまうのです。

もっとも、こういった「無限の努力をするしかない」というある種捨て鉢な思想は、この本が書かれた時代に特有のものだったかもしれません。僕は1998年から2006年ぐらいの間まで、思想や哲学の本をわりと多く読んだのですが、そんな感じの言説によく出会いました。大学の授業でも、倫理でアウシュビッツが扱われると、「被害者の証言を無限に反復しなければならない」的な記述に『記憶のエチカ』あたりで突き当たるわけですよ。

記憶のエチカ――戦争・哲学・アウシュヴィッツ (岩波人文書セレクション)

記憶のエチカ――戦争・哲学・アウシュヴィッツ (岩波人文書セレクション) [書籍]

著者高橋 哲哉

出版社岩波書店

出版日2012 年 10 月 24 日

商品カテゴリー単行本(ソフトカバー)

ページ数292

ISBN4000285564

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あと、ジャック・デリダに対する「否定神学的でうんたらかんたら」という批判に対して、別の人が「でも否定神学しかないじゃん」って擁護したりとか。なにで読んだのかさっぱり忘れましたが。

ともかく、僕は『無痛文明論』を読んで、人は無限にがんばれないので、結局は我々は自己家畜化されていくんだなー、悲しいなー、でもしょうがないかと思ったわけです。この本はもしかしたらトンデモ本に分類されるのかもしれませんが、日本の哲学者の多くが海外の思想の紹介に終始している中、自らの言葉で文明について考えている森岡氏に大変共感を覚えたのでした。

現代の自己家畜化進捗具合

で、上のニュースに戻ります。このニュースは両方とも性についてのニュースですが、二つの側面から興味深いです。

  1. 性的な欲望を忌避する文化が身体的なレベルに影響を及ぼしているという点。
  2. 欲望を許容しないという社会の意志が司法レベルで表れているという点。

現代人はごく短い期間だけ欲望を持つことを許されている

草食系男子という言葉が流行ったのはけっこう前ですが、男性が性的なことに興味をもたなくなってきたのは社会の要請によるというのが僕個人の意見です。児童ポルノの単純所持を罰する法律の件とかもそうですが、これも頭のおかしい鬼女の群れが「ロリコンに死を!」とばかりに表現の自由を踏みにじろうとしたわけではなく、世界的な要請であり、事実多くの国では児童ポルノの単純所持は違法とされています。

僕が小学生の頃は『少年ジャンプ』で乳首を拝むが何度かあったのですが、桂正和も『D・N・A2』あたりから乳首にスクリーントーンを貼らなくなってしまいました。

D・N・A2 FILE 1―何処かで失くしたあいつのアイツ (集英社文庫 か 23-30)

D・N・A2 FILE 1―何処かで失くしたあいつのアイツ (集英社文庫 か 23-30) [書籍]

著者桂 正和

出版社集英社

出版日2012 年 10 月 18 日

商品カテゴリー文庫

ページ数294

ISBN4086193868

Supported by amazon Product Advertising API

いまやコンビニのエロ本は厳重にビニール紐で縛られています。もちろん、Greeやモバゲーが援交の場になっていたり、アメーバピグで疑似ソープランドが経営されていたり、「世も末だな」と思うこともあるのですが、そういうのは速攻で潰されています。少なくとも、ブルセラとかが流通していた期間に比べると、あっという間に粛正されている印象です。

要するに、「ムラムラするなら健全にムラムラしろ」というメッセージは常に社会から発信されており、それは速やかに実行されているわけです。そういったメッセージを浴び続けてたら、そりゃ男子中学生でも射精しなくなるヤツ出てくるでしょう。

晩婚化についても僕は社会からの要請に分類しています。大学の頃から付き合ってた彼と6年かけて25歳でゴールインみたいな夫婦を何組か知らないわけではないですが、そういった「恋愛強者」ならともかく、恋愛市場における優位点を特に持たず、ぼやっとした理想を持ち、人並みに労働をして経済的にも安定し、そろそろ結婚でもしないとなーと思ったらもう30近い。で、焦って婚活しまくってなんとか相手をゲットしたら33歳でしたみたいなのは凄くありそうです。このケースの場合、その人が単に「恋愛弱者である」という個人的な問題に還元することもできなくはないですが、世代別人口比によってシルバー民主主義が構造的に達成されてしまった現在、「パコるなら一人前になってからパコれよ」というのが社会的なメッセージを受け続けた結果とも取れます。

そんなこんなで社会的なメッセージとしては「一人前になってから子づくりのためだけに健全にパコれよ、それまでは草みたいに欲望を殺して生きろ」となるわけで、それは忠実に達成されているわけです。

現代人の欲望処罰対象は細かくなっている

上の節でほとんど言い尽くしてしまいましたが、裁かれた不倫カップルについて。

このケースは男性側の欲望が裁かれたわけではなく、誘われなかったのを拒まなかった女性側に損害賠償が請求されました。この事件は男性側が「やらせろ」と迫ったというので、女性側にはそんなに非はないような気もしますが、誘われるのが悪い気はしないということでデートに行ったりしていたことが処罰対象になったわけですね。

性的な欲望に関しては男女の間に非対称の関係があり、どうしたって男性の側から「やらせろ」となることが多くなり、女性の側は「付き合って/結婚して/奥さんと別れてくれないとやらせない♡」と防戦する形になりがちです。安く買いたたくか、高く売り抜けるかといったゲームですね。仕事をしてる女性ではこうした仕組みを上手く利用し、枕営業などするまでもなく、オジサン達をたらし込んで高い成果を挙げる人もいます。ビッチの処世術「彼氏がいることを絶対言わない」もtwitterの#彼氏いませんタグを追っている人なら知っているでしょう。

https://twitter.com/kuna__/status/431345406597791744

みんながみんなそうした非対称性に生きているとは言いませんが、社会的通念をベースに判断を下す司法の場合、言い出しっぺが悪いという法則にしたがって「そもそも男がムラムラしたのが悪い、女無罪、夫は反省しろ」という大岡裁きを下しそうなもんですが、このケースでは性的な非対称性を鑑みた上で女性が怠けたという判断を下しています。

フェミニストなら「家庭に入った女性を優遇し、独身女性を蔑む不公平な裁判」と感じるかもしれませんが、なんにせよ司法の求める倫理基準はけっこう高いんですね。これはますます精通の年齢が遅れそうです。

欲望への欲望は内面化される

ここから先は最初に紹介した二つのニュースとは関係ないですが、そうした社会的な要請を内面化する人の方が成功しやすいというお話です。

イケダハヤト氏が家畜のアナロジーとして生み出された社畜という言葉をわざわざオリジナルと比べるという事件より前から、多くの人が「社畜」という言葉を知っていたと思いますが、これは何も最近発明されたわけではなく、概念的にはけっこう前から存在しているはずです。「労働者とは制度化された奴隷のことだ」というのを誰かがおそらく言っているはずです。賃金を貰ってはいますが、自分で意思決定することができないので、奴隷と一緒だよということですね。奴隷も生かさず殺さずの食事や寝床は貰っていたんですから。

これは僕が会社経営というある程度自由な身分だから「社畜ども我を仰ぎ見よ」と思っているのではなく、社長だろうがフリーランスだろうが、多かれ少なかれ奴隷です。EvernoteのCEOが悪いこと言わないから、会社なんて始めるべきではありませんと言っているように、起業したところで客や社員の奴隷みたいな状況になることは代わりありません。

で、僕が仕事で出会う「高い成果を挙げる人」は、かなりの割合で「とても我慢強い人」によって占められています。人間的にめちゃくちゃだけど高い成果を挙げるスティーブ・ジョブズみたいな人はほぼ皆無、絶対に怒らないで我慢強く続ける人がほとんどです。

そういった我慢強い人々と話をすると、大抵『雨ニモ負ケズ』みたいなことを言うんですね。タイプ的に熱血漢っぽい人や破天荒と言われる人でもまあ怒らないですよ。クライアントにぼろくそに言われても殴り掛かったりしないですからね。「くだらない仕事ですね、やる気でません」とかも絶対言わないし、めんどくさいからメール全部無視とかそういうこともしません。

かといって、彼ら/彼女らが心の底まで奴隷根性の染み付いたクズどもかというと、それはまったくの逆で、自分が実現したいことのために我慢していたり、僕から見たら穀潰しにしか見えない社員でも「自分みたいなダメな経営者を助けてくれる家族のような存在」に思っていたりと、非常に高い倫理観の持ち主なわけです。

滅私奉公はいまでも善とされているわけですが、そうした奴隷根性の極みみたいなものをきちんと内面化して昇華した人が経済的に成功するというのは、とても理にかなっています。まさに社会的要請の体現者達です。

欲望を持たない美しい魂

思想家の東浩紀氏は「欲望を裁くことはできない」と書いていましたが(本家リンク切れなので言及している記事にリンク)、原理的にすべての欲望を潰すことはできなくても、「欲望を監視したい」という社会の欲望を内面化する動きは進んでいるように感じます。

その結果として、人々は、性的に異常ではなく、社会的に一人前になってから僅かな欲望を必要に応じて発露させ、そして、普段はまったく怒らずに働く。これはある意味でとても美しい人間のありようです。そして、それが求められているということ、その求めに応じた方が生きやすい社会であるということもまた事実でしょう。

そう考えると、人類の自己家畜化は着々と進んでおり、とても退屈で美しい光景が広がっているんですね。YahooニュースやNewsポストセブンの記事でここまで長文を書くことになるとは、と驚きつつ、終わり。

 

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この記事はが2014 年 4 月 22 日に読書日記の記事として公開しました。

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