僕は会社を独立してからずっと受託でお金を稼いでいるのですが、基本的に頼まれたことをやっているだけなので、わりと取引先を失うことがあります。なので、失注と言っても競合プレゼンで敗北するのではなく、気づいたらいつのまにか別の業者に鞍替えされてたというパターンですね。
このパターンに陥るケースとしては、だいたい以下の条件を満たしています。
- 先方はすごい沢山の提案を貰いたがっている
- 予算感が提示されない
- 本業がITとは縁遠い
実はこのサイクルに陥るのには黄金パターンがあります。それは、「Webに詳しい人が僕を見つけ出して依頼した」という代理店的なパターンですね。基本的に営業をしない弊社では、それが受注のすべてです。
で、いつのまにか僕が直接依頼を受けるようになることがあります。その人なり会社が……
- 途中で飛んだ(行方不明になった)
- 実は技術的に使えないとわかってしまった
- 僕に直接発注したほうが安くなるのではないかと画策した
というケースです。すると、間にいた人がいなくなって直接取引となるのですが、このような状況になるには間の人がダメだったというのではなく、クライアントにも問題があるケースが多くて、予算がないとか、要件を決められないとか、そういうことが往々にしてあります。
最初は「わーい! 外注費が下がった!」と喜んでいたクライアントも、ミーティングフィーが出ないのになんで会議するのとか、なんで言われないのに提案しないといけないのとか、段々とそういう怠惰な態度(弊社の方針です)に怒りを覚え始めるらしく、そこに這いよる営業熱心なベンダー出現ですよ。おそらく、あることないこと言われて、気づかないうちに僕が憎まれていたりするんでしょうねー。
そんなわけで前述した失注サイクルにつながります。まあ、そういうベンダーに限ってGitの使い方もわかんなくて、サーバー上に index.php.20151005.backup
とかいうファイルをモリモリ増やしていくんですけどね。
こんな僕を助けてくれるのは代理店やSIerだけ
さて、実はこんなことを書いておいてもそれほど困っているわけではなく、僕としては間に立つ人の重要性をあらためて感じたりします。僕は会社を経営しているということもあって、直接東証一部上場企業と取引したり、大手代理店の二次請け・三次請け、中小企業の直請けもやったことあるんですが、できる代理店の人と大きな仕事をするのはとても楽です。他との比較で説明してみます。
大手企業の直請けがめんどくさい点
たまにものすごい担当者さんが気に入ってくれたりして、色々といいこともあるのですが、なんというか、稟議を通す面倒くささに付き合わなければいけないことと、最終的にポシャったときに感じる軽さみたいなものが嫌ですね。
軽さがなにかというと……そうですね、僕は昔ベンチャー企業で月300時間働く社畜生活やってたんですが、たとえば2億円の3社乗り合い提案があって、そのために2ヶ月かけて死ぬほど頑張って、結局受注できたけど2社分だけでウチだけ外されましたとかなると、普通は「殺すぞ?」ってなるじゃないですか。でも大手企業の人は「すいません!」とかいって泣いたりするんですけど、翌春には異動になってたりして、それで許されると思っている軽さが許せないですね。別に許しますし、家行ったりしないですけど。なんかこう、それを許したところで誰からも褒められないというのがストレスたまりますね。
中小企業の直請けがめんどくさい点
中小企業でITが専業でない場合、ほとんど社長とやり取りすることになるのですが、まれにキチ◯イとしか思えない人が混じってるんですね。そういう人と話すのって人生の無駄なので、僕は正直に「なに言ってるかわからん」と言うわけです。
それでも話が進まない場合は学歴をフルに利用し「僕は東大出てるんで世の中の平均よりはだいぶ頭がいいはずです。わりとコミニュケーション能力もある方です。その僕が理解できないということは、あなたの言っている話は重要な情報が欠落しているという可能性はないですか? それともハーバード大とかMITの博士課程を出ているような人しか理解できないほど高度な話をしているんですか? とても御社の企業規模がそうだとは思えないんですけど」とか答えるんですけど、そうなるともう「人はこれほど激高できるのか」というほど怒りだすんですね。
で、これで喧嘩別れになるかどうかが分水嶺となります。「こんなんでコイツ生きていけるのか?」と危惧する方もいるかと思いますが、世の中の中小企業の社長というのは色々と辛酸を舐めているのでこれぐらいでもぜんぜん大丈夫です。みんなタフですよ。
しょぼい代理店の二次請けがめんどくさい点
しょぼい代理店のダメなところは、技術的なことがわからないので「幾らです?」って聞いてきて、たとえば「50万でできます」って答えたとするじゃないですか。そうするとなんと80万で請求かけてたりするんですね!
それじゃダメですよ。僕が50万っていったら、客には200万ぐらいで請求しておいて、残りの150万でめんどくさいこと全部やった上で利益を出してもらわないと。表にするとこれぐらいが適正価格です。
破滅派 | 元請け |
---|---|
30万 | 100万 |
50万 | 200万 |
150万 | 500万 |
300万 | 1000万 |
感覚値ですが、マジでこれぐらいが上手く行きます。僕は見積もりを出すときにその要件をコーディングで解決するにはどれぐらいかかるかでしか出していないので、あとから「コンテンツが用意できません、どうしたらいいですか」とか、「要件間違ってました、24/7の対応が必要でした」とか、「WordPressの検索しょぼいのでGoogleみたいに便利にしてください、でもカスタム検索はダメだよ」とか、そういうバッファは見てないんですよ。「いや、24/7の対応してくれるホスティング会社は存在するので、そこに月10万ぐらい払えばいいじゃないですか」としか思わないです。
基本的に代理店やSIerのミッションは「顧客の要求を代わりに完遂すること」にあるので、技術費用以外がいくらだとかそういうことを僕に求められても困るんですね。それはおまえの仕事だろ、と。100万を30万にしたいなら、スケジュール組んだり要件決めたりご機嫌取りしたりする70万円分をどうにか捻出しないといけないわけです。
間に大手の優秀な人が立つ場合
大手代理店・SIerにもダメな人はいっぱいいるでしょうが、彼らが優れていると思うことは以下の点ですね。
- 絶対に仕事を終わらせる
- スケジュール感覚がある
- コスト感覚がある
終わらせる
まず、一点目は代理店の本質なのでできて当たり前。僕はこの業界で仕事をしていて思うんですけど、どんなにバグが多くても、どんなに品質が低くても、終わらせるだけでかなり生存確率は高くなります。飯を食っていくという観点だけでいうと、生き残っているだけで勝手に回りがバックレて消えていくので、ホントにちょろい業界ですよ。何もしなくても勝手に価値が上がっていくというか。小説の世界でもほとんどの人は作品を完結させられないので、終わらせられるのはそれだけで価値があるんですね。
スケジュール
次に、スケジュール感覚なのですが、要件に変更があった場合、当然「この変更による遅延はどれくらいになりますか?」と聞かれるわけです。僕は「いきなり言われてもわかんないんで、ちょっと考えますわ」と答えます。めんどくさいので。ここでダメな人は「わかりました」と言って引き下がるんですね。
そうすると何も進まないまま一ヶ月ぐらい経過しているわけです。恐ろしいですね。ボールはどっちが持ってた、とか不毛な議論に発展しがちです。そんなことはどうでもいいんですよ。
ここでできる代理店の人は「そのお答えはいつごろわかりますか?」と聞き返してくるんですよ。僕もよく考えたら30分ぐらいで答え出せるんで、そこでみすみす一ヶ月を棒にふることはないわけです。
コスト
コスト感覚はとても重要です。ダメな人と話していると、なんか色々夢のある話をするのですが、僕としては「で、幾ら持ってんの?」と思うわけです。そりゃ僕だって54億持ってたら海上国家建設に向けて動き出しますよ。重要なのはスケジュールと予算なわけで、弾薬も兵站も不明なまま戦争始めるほどバカなことはありません。
あと、優秀な代理店の人は僕を絶対に客前に連れて行かないですね。自分が技術的な質問をされたらどうしようという不安をリスクではなくチャンスと考え、そこをハッタリで乗り切るのが腕の見せどころ。それが利益に変わるわけですからね。
僕も連れてかれたらなんか答えますけど、僕みたいにアラフォーになると新しい人と会っても「どうせお前も死んじまうんだろ……」としか思わないので無駄な出会いはない方が嬉しいですし、僕があんまりバリバリ答えると「あれ、代理店いらなくね?」となってしまうリスクになるわけです。
*
そういうわけで、僕は今後もNTTデータや伊藤忠テクノソリューションズ、博報堂アイ・スタジオなどから仕事が降ってくることを夢見て、いつでも彼ら/彼女らの靴の裏を舐める心づもりをしておきます。
余談:清原のアレ
ちょっとしか関係ないんですけど、僕が会社勤めをしていたとき、某大手代理店の人で「この人マジですごいな!」と思っている人がいたんですね。
どうすごいかというと、僕がブラック労働で深夜三時に会社で働いているとするじゃないですか。そうすると、電話かかってくるんですよ。「いまからバナー作れる人います?」って。深夜三時にバナーを作り始める状況というのがよくわからないのですが、その時間になるとこっちもラーメン屋で瓶ビールをキメてたりするんで、ちょっとおもしろくなってきて、もうお家に帰ったブラック組に電話をかけます。「お客さんが呼んでるよー、指名入ったよー」ってゲスいノリで。
で、その社員が翌早朝七時ぐらいに出社してくるじゃないですか。そうするとですね、僕がオフィスの椅子を3つ連結して眠りに落ちようとするとき、その社員とあの代理店の人が電話で話してるんですよ! で、マジかよって思いながら眠って、昼前ぐらいに目を覚ますとその社員が「終わったー、なんだよ昨日の」とか言ってるんです。僕はそのとき、サラリーマンには化物がいるなと思ったものです。
で、その後、二年ぐらい僕も「社会で働くって大変だな!」とか思いながら月300時間労働をキープしてたんですが、ある日その代理店の別の社員が3人ぐらいやってきたんです。で、エレベーターでその人たちを見送ったうちの営業がめちゃくちゃニヤニヤしながら「Tさん逮捕されました」って教えてくれたのです。覚醒剤でパクられたらしいんですね。新聞にも載ってました。
で、僕は思ったのですよ……
あぶねー! ちょう危なかった! 普通にサラリーマン化物だと思ってた! 危うく尊敬しかけてた! でもそれはサラリーマンがすごいからじゃなくて、覚醒剤がすごかったからだった! そりゃそうだよね! あんなに起きてられないよね! よく考えたら俺の同僚もそんな働いてないし、「なんで風邪引くの? 意識が低い!」とか思ってたけど普通に引くよね!
だって人間だもの。
というわけで、僕はその後「そんなに働かなくても別によくない?」という結論に達し、フレックスタイム制度をフル活用、午後三時に出社して午後八時に退社、渋谷から経堂まで走って帰るというわけのわからない生活サイクルを送るようになり、最終的に「世の中ちょろいなー、会社作ってみるか」という結論に至りました。
というわけで、みなさんも覚醒剤はダメ、ゼッタイ!
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著船山 信次
発行講談社
発売日2011 年 3 月 18 日