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ジョージ・オーウェル『動物農場』と出版時の受け止められ方

高橋文樹 高橋文樹

この投稿は 1年半 前に公開されました。いまではもう無効になった内容を含んでいるかもしれないことをご了承ください。

Audible書評です。ジョージ・オーウェル『動物農場』はソビエト連邦を戯画化した作品として有名です。人間に反乱を起こして農場を支配した豚が、社会主義を標榜しながら徐々に独裁化していくという歴史によく知られた状況を戯画化しています。豚の指導者ナポレオンはスターリン、スノーボールはトロツキーといった具合。

動物農場〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

価格¥880

順位13,156位

ジョージ・オーウェル

イラスト水戸部功

翻訳山形浩生

発行早川書房

発売日2017 年 1 月 7 日

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この小説自体はネットでフリーで読めるのですが、併録の「英語版序文原案」と「ウクライナ語版序文」、そして訳者である山形浩生の解説が面白かったです。

  • 現在進行中のロシアによるウクライナ侵攻に重なる部分が多い。ソビエト話法というか、屁理屈を公然と言いながら無理くり押し通していくところとか、いままさに起きていることとそっくりです。
  • 1945年、オーウェルはこの本を出すまでに何社にも断られた。T・S・エリオットが「豚にたとえるのはやりすぎ」といって出版を断ったのは面白い。なにより、自己検閲としてイギリスの版元がソ連を悪く言わないようしていたとか。社会主義がいまよりももっと強かった時代ならでは、とも言い切れない状況が今もありますね。
  • ソ連の内情はイギリスでもあまり知られていなかったので、いまなら動物農場に描かれた戯画化もそれほど過激とは思えない(もっとひどいことがあとで露見する)のですが、ソ連の情報戦略はうまくいっていたのでしょう。
  • ウクライナ語版はもっとも早く翻訳された版だそうですが、配られたのはドイツ(?)にあるウクライナ難民キャンプで、初版2,000部のうち500部を配り終えたあと、占領軍(米軍)に没収されたとか。

社会主義を信奉してスペイン内戦にまで参加したオーウェルだからこそ、社会主義国の皮をかぶった独裁国ソビエト連邦への怒りが強かったようですね。

僕は中学生ぐらいから朝生をよく見ていたのですが、日本の親露派政治家が「ロシアは北方領土の2島返還は同意している、4島返還へ向けて刺激しないよう交流すべし」ということをずっと聞いていました。が、どうも現時点では元々ロシアにはそんな気がまったくなかった、ということになっています。30年も騙されてたのか、と驚きました。

また、「NATOが東方拡大しないという約束を西方諸国が破った」というロシアの主張もゴルバチョフ前書記長によって「そんな約束はなかった」と否定されています。しかし、この後に及んで鈴木宗男のような親露派は「ロシアにも言い分がある」という主張をしていますね。

イアン・ブレマーはソルジェニーツィンの言葉を引いていましたが、こういう強力な嘘つきとどうやって対話していったらいいかというのは今後数十年の課題なのでは、と思いました。

私たちは彼らが嘘をついていることを知っている。

彼らは自分達が嘘をついていることを知っている。

私たちが彼らは嘘をついていると知っていることを、彼らは知っている。

私たちが彼らは嘘をついていると知っていることを彼らは知っていると、私たちは知っている。

そして彼らは嘘をつき続ける。

アレクサンドル・ソルジェニーツィン
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