三年ぐらい前にフランスの大作家ルイ=フェルディナン・セリーヌの未発表原稿が大量に発見されたというニュースが出ました。
さて、今回の『戦争』だが、舞台は第1次世界大戦、セリーヌが20歳の時、参戦して大けがを負った体験に基づいている。書かれたのは34年と言われるが、没後60年も経って日の目を見たという、いわくつきの小説である。
死と直結した濃厚なエロス 60年の空白経て刊行された『戦争』が描く、人の極限の姿 – 朝日新聞GLOBE+
この邦訳が昨年の暮れに幻戯書房のルリユール叢書から出たので買って読みました。読んだのは去年なのですが、年末年始忙殺されており、感想文がいまになりました。
価格¥2,750
順位389,048位
著ルイ゠フェルディナン・セリーヌ
翻訳森澤友一朗
発行幻戯書房
発売日2023 年 11 月 27 日
ルリユール叢書は装丁がかっこいい
セリーヌで手に入りやすい本は中公文庫『世の果てへの旅』と河出文庫『なしくずしの死』ですが、これらは初期の作品で、中期以降に反ユダヤ主義になったセリーヌはフランス国内で国家反逆罪クラスの重い罪に問われてデンマークへ亡命します。で、ずっと争っていた勢力から原稿を「盗まれた」らしいのですが、その盗まれていた原稿が二年前に見つかって、六〇年ぶりの新刊となったわけですね。このブログでも紹介した『フランス組曲』みたいな感じで、フランスはそういうのが多いんでしょうか。ここら辺のいざこざは本書解説に詳しいです。
さて、肝心の物語はというと、そのものずばり戦争。第一次大戦に従軍したセリーヌの実体験を元にしたストーリーで、ある英雄的な撤退線で負傷した主人公が病院にいるシーンが大半を占めます。セリーヌ文体というか、罵倒後に満ちた一人称語りも楽しめますね。
ぶっちゃけ未完なので読む人を選ぶと思いますが、本書のかなりの紙幅を占める解説・評伝も見どころ。本書の原稿発見にいたる経緯や、亡命後から晩年にいたるセリーヌの様子、そして反ユダヤ主義として国賊扱いされたセリーヌを気遣って原稿の公表をコントロールしようとする遺族など、知らなかったことがたくさん書いてあった面白かったです。一番衝撃的だったのは「セリーヌの墓には一言〝否〟と彫ってある」という逸話が嘘だったということ。僕も自分の墓に〝否〟と掘るつもりだったので、嘘だとわかってよかったです。
また、訳者である森澤友一郎氏は東大仏文科の後輩です。面識ないのですが、学部卒で翻訳出版するというのは、なかなか珍しく、演劇をやっているというキャリアの中で真摯に原稿に向き合った結果ですかね。僕もいい年なので、同級生が准教授ぐらいのポジションにいることも珍しくなく、大学院を出た人が翻訳書の一冊や二冊出していても驚かないのですが、森澤氏はユニークな経歴ですね。なんかシンパシーを感じてしまいました。今後の活動にも期待です。
ちなみにセリーヌといえば、僕は金持ちになったら国書刊行会から出ている真っ黒い全集を買おうと思っているのですが、なかなか踏み切れずにいます。広い家に引っ越したら買いますかね。
価格¥1,430
順位18,393位
著セリーヌ
翻訳生田 耕作
発行中央公論新社
発売日2021 年 12 月 22 日
価格¥1,882
順位37,603位
著ルイ‐フェルディナン セリーヌ
原名C´eline,Louis‐Ferdinand
翻訳和彦, 高坂
発行河出書房新社
発売日2010 年 8 月 3 日
価格¥999
順位663,102位
著高橋文樹
発行株式会社破滅派
発売日2015 年 7 月 13 日
『東京守護天使』の文体はセリーヌの真似です。