この投稿は4年半前の記事です。 情報が古くなっている可能性があるので、その点ご了承ください。
2012 年 12 月 21 日 1,558日前)
2,714文字 (読了時間6分)

SPONSORED LINK

ここ最近はBookLiveという電子書籍アプリで『To LOVEる ダークネス』を貪り読んでいましが、ついに大著『慈しみの女神たち』を読み終えました。半年ぐらいかかりましたよ。

慈しみの女神たち 上

慈しみの女神たち 上 [書籍]

著者ジョナサン リテル

クリエーター菅野 昭正, 星埜 守之, 篠田 勝英, 有田 英也

出版社集英社

出版日2011 年 5 月 26 日

商品カテゴリー単行本

ページ数560

ISBN4087734730

Supported by amazon Product Advertising API

慈しみの女神たち 下

慈しみの女神たち 下 [書籍]

著者ジョナサン リテル

クリエーター菅野 昭正, 星埜 守之, 篠田 勝英, 有田 英也

出版社集英社

出版日2011 年 5 月 26 日

商品カテゴリー単行本

ページ数440

ISBN4087734749

Supported by amazon Product Advertising API

さて、件の書物なのですが、これはフランスでもっとも名誉ある文学賞のうち2つを同時受賞した作品です。日本でも書評などで取り上げられていたので聞いたことがある方も多いんじゃないでしょうか。

Baden-Baden, Festnahme von Juden
Bundesarchiv, Bild 183-86686-0008 / CC-BY-SA

ナチス将校である主人公が老齢になって戦争時代に起きたことを回想するという体なのですが、同性愛、近親相姦、親殺しなどの古代ギリシャ演劇のような枠組みを持ちつつ、その情報量において特異な点を持つ作品でした。

大学の頃、というと10年以上前のことになってしまいますが、倫理学の授業でホロコーストのドキュメンタリー映画『ショアー』が扱われたことがありました。僕はけっきょく見ていないのですが、なんと全編9時間超

なぜそんなことになったかというと、8年ぐらいかけて撮り溜められたドキュメンタリー形式の映画だからなんですね。ホロコーストという恐ろしい事態を題材にする以上、映画的な演出は抑えなければならない、という動機からそのようになったようです。監督の動機がなんであれば、僕は「ホロコーストという困難を語るために物量を選んだのだな」と当時は思ったものでした。

で、『慈しみの女神たち 』に話を戻すと、これもまたある種の物量をもってしてホロコーストに向き合った作品なのかな、という感想を持ちました。

というのはですね、めちゃくちゃ細かいのです。近現代の戦争を取り扱った文学作品には少なからず軍隊の組織論について語る部分が出てくると思うのですが、この作品の細かさは群を抜いている印象を受けました。

主人公アウエの抱える仕事がなんであり、それが軍務上どのような位置づけにあるのか、そして、誰がその任務に期待し、誰が煙たく思っているのか、そういったことがこと細かに描かれています。実在の人物も多く登場し、たてえばアイヒマンやゲッペルスなども登場します。アウエは晩餐の席でアイヒマンの妻が夫の仕事についてどう思っているかを彼女の表情から察したりするのですが、そうした細かい描写を読むにつれ、いったい作者がどれほどの時間をかけてナチスについて調べたのか、驚嘆を禁じ得ないわけです。

なお、作者はこのナチスについての小説を書こうという構想を1989年に抱いたそうです。それからNGO職員としてボスニアやらの危険な地域で働きながら、2000年代半ばに出版までこぎつけました。となると15年以上かかってますね。凄まじいです。

こういう文学作品は「難しすぎるんじゃないか」という思いを抱かせてしまうことを恐れた訳者が、エンターテイメント性もあるよというようなことを書いたりするものです。本書もその例に漏れず、「ミステリー的な要素もあるよ」とあとがきに書いてあるわけです。

たしかに主人公アウエは両親殺害の嫌疑をかけられ、戦時中2人の刑事に追われ続けるのですが、そういった物語をドライブする要素も圧倒的な物量の前では瑣末なことです。たとえば主人公は同性愛者なので、「ホモセックス描写もあって腐女子大歓喜!」とかそういう煽り方もできるのかもしれませんが、そうしたエンターテイメント的な部分は先述した『To LOVEる ダークネス』 (詳しくは「古手川 くぱあ」で画像検索)で間に合うのであって、僕はやはりこの圧倒的な物量の前に打ち拉がれるという知的自傷行為を推したいと思いました。

柄谷行人は蓮實重彦との対談でメルヴィルの『白鯨』のように百科全書的な作品をサタイアと分類していましたが、『慈しみの女神たち』はサタイアの最たる例ですね。

闘争のエチカ (河出文庫―BUNGEI Collection)

闘争のエチカ (河出文庫―BUNGEI Collection) [書籍]

著者蓮實 重彦, 柄谷 行人

出版社河出書房新社

出版日1994-02

商品カテゴリー文庫

ページ数318

ISBN4309404081

Supported by amazon Product Advertising API

そんなこんなで、はっきりいって読む人を選ぶ作品だと思います。元のフランス語でも「シュトゥルムバンフューラー」とかはドイツ語のままらしいので、本国でも読む人を選んでいたことでしょう。『薔薇の名前』がラテン語まじりで読めない問題というのがありましたが、なんでヨーロッパ人ってそういうことやっちゃうんでしょうか。

「バラの名前」便覧

「バラの名前」便覧 [書籍]

著者アデル・J. ハフト, ロバート・J. ホワイト, ジェーン・G. ホワイト

クリエーター谷口 勇

出版社而立書房

出版日1990-04

商品カテゴリー単行本

ページ数273

ISBN4880591424

Supported by amazon Product Advertising API

ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」に関する用語集です。

「薔薇の名前」は、膨大な数の歴史的用語が出てきますが、巻末の注釈などがまったくありません。おまけに、文中にしばしば、意味ありげにラテン語の

語句が出てきますが、ここにも訳がついていません。

この本には「薔薇の名前」に出てくる歴史上の人物、異端各派の解説および本文中で訳されないまま出てくるラテン語箇所の訳文が載っています。

「薔薇の名前」を読み終わった人にとっても、これから読む人にとっても、この本は理解を深めてくれる手助けになると思います。

Amazon カスタマーレビューより

あとさらにハードルを高めてしまうような気もしますが、お高いですね。上下巻8000円ぐらいしました。最近海外文学作品の値段が上がっているような気がする(10年前2,000円代だったものがいまは3,000円代ぐらい?)ということを差し置いても、やはり8,000円は高いですねー。

世界各地の文学を自国語で安価に読めるという幸福な時代はもしかしたら終わりつつあるのかもしれません。終わり。

 

フォローしてください

ここで会ったのもなにかの縁。
高橋文樹.comの最新情報を見逃さないためにもフォローをお願いします。
めったに送らないメルマガもあります。

SPONSORED LINK

この記事について

この記事はが2012 年 12 月 21 日に読書日記の記事として公開しました。

高橋先生の電子書籍

高橋先生の電子書籍

Amazonで電子書籍も買えます。

好きな言葉

既存の社会制度の中で生き、それを享受してきた人間にとって、そのシステムに期待するものが何もなかった者たちが、格別恐れもせずにその破壊を試みる可能性を想像することはおそらく不可能なのだ。

— ミシェル・ウエルベック

高橋先生の処女作

『途中下車』高橋文樹

2001年幻冬舎NET学生文学大賞受賞作です。

Web制作やります

Web制作やります

Web制作のご依頼は株式会社破滅派へ

不定期メルマガ

高橋文樹.comでは、不定期でニュースレターを配信しています。滅多に送らないので是非購読してください。

高橋文樹.comではプライバシーポリシーに準じて登録情報を取り扱います。