先日(といってもかなり前ですが)、母校の東大仏文科の集まりに参加して、恩師の塚本先生から『フランス組曲』という本を薦められました。野崎先生が訳しているので、多少盛ってるのかなーと思ったのですが、これがなかなかどうして心揺さぶられるものだったのでご紹介します。
価格¥1,920
順位259,669位
著イレーヌ ネミロフスキー
翻訳野崎 歓, 平岡 敦
発行白水社
発売日2012 年 10 月 25 日
さて、件の『フランス組曲』ですが、作家のイレーヌ・ネミロフスキーはロシア系ユダヤ人で、フランスの女流作家です。で、すでに故人で、その死んだ場所はアウシュビッツです。
ネミロフスキーは強制収容所に連行される前、家族にトランクを託しました。そしてその後、夫もまた強制収容所に連行されることになるわけですが、夫は残された娘達にこう伝えます。
「決して手放してはいけないよ、この中にはお母さんのノートが入っているのだから」
イレーヌ・ネミロフスキー『フランス組曲』白水社、2012、P.552
残された娘達は心ある後見人のおかげで戦後まで生き延びます。しかし、その後長くノートを開かずじまいでした。母の日記を覗き見ることはできない、という子供らしい遠慮からです。
そしてそれから数十年の時を経た2004年、そのノートは実のところ、母が生前、迫り来る死の予感を打ち消すようにして書いた一編の小説だったことがわかります。それも、女流作家畢生の長編小説でした。
この本はフランスで出版されるやたちまちベストセラーとなり、その後各国で翻訳され、全米で100万部以上売れたそうです。
こういう話を聞くにつれ、本当の才能は運命だったのだな、というのはいつも思います。努力はやろうと思えばできますが、運命だけはどうにもならない。己の努力を誇っているうちはまだまだひよっこ、結局は運命だったのだと受け入れることこそが人を本当に強くするのだなーと思いました。
まあ、小説自体は20世紀初頭のフランス文学っぽい感じなのですが(バルザック風の人間分析が随所に入ってたりとか)、ナチスの侵略に怯えた人々が橋を渡れずにやきもきするところなどは、先の震災で交通渋滞にあった人なら相当のリアリティを持って読めることでしょう。
ちなみになんですが、なんで日本の小説って解説を最後に書くんでしょうね。もったいつけすぎじゃないでしょうか。よその国ではたいてい序文というものがあって、この本がいかに読むに値するかを訴えかけるという営業努力をしていますよね。
少なくとも、『フランス組曲』に関しては、この本がどのようにして生まれたかということを知ってから読んだ方が面白いはずです。終わり。