さて、このブログでは特に宣伝しておりませんでしたが、今年の4月からゲンロンSF創作講座というものに参加しています。特徴は以下の通り。
- 講師の大森望先生をはじめ、著名な作家・評論家・編集者が毎回講師をつとめる。よくあるカルチャースクールとの一番の違いはここ。
- 毎月一回梗概(原稿用紙3枚程度)を提出し、そのうち面白そうだった上位三名が翌月に実作(原稿用紙50枚程度)を提出し、読んでもらえる。落選しても提出自体はできる。
- こうしたレース自体が利用して盛り上がることが(主に運営から)期待されている。
ぼくはわりと昔から東浩紀さんを見ているので、こういうバトルロイヤルっぽい場所を提供して、観客(とあえて書きますが)がその状況を俯瞰して眺めるエンターテイメントを提供するのは東さんっぽいなと思いました。ゼロアカとかもそうでしたね。
参加しようと思った理由は色々あるのですが、今回はそのバトルロワイヤルのいち参加者としてある試みをやってみたので、ざっくり紹介します。
宣伝する対象
まず、僕はこれまで一度も梗概が選出されたことはなかったのですが、10月に行われた第七回講義ではじめて梗概が選出されました。『おかえり、アセファル』という氷河期に凍りついたベーリング海を移動する可動式住宅(住人は幼い兄妹)が生首に追っかけられる話なのです。
で、SF創作講座ではFacebookのいいね数が表示される仕組みになっています。実際のところ、かなり初期の段階で「作品の完成度といいね数ってあんま関係ないね」という結論は出ていたのですが、それはそれで「単にいいねが多いだけで評価される作品が出てくるかもしれない」という余地としていまも残っています。
参加している受講生の立場からすると、講師の先生に対して働きかけられることはあまりない(もう書いちゃったから)ので、あとはいいねを集めるか、URLを拡散するぐらいしかないので、ではいっちょそこに注力してみようと思った次第です。
施策と達成目標
広告出稿先として一番お手軽なのはFacebook広告とtwitter広告。Facebookはもしかしたら企業じゃないと駄目かもしれませんが、僕自身が会社を持っているのでどうだったか覚えていません。ちなみに、GoogleのAdwordsは入れてませんが、リスティングは文学と相性が悪いというのが僕の持論です。藤井太洋さんもそんなこと言ってたと思います。
予算はどちらも$15とお手軽に始めます。あわせて$30。飲み代一回分です。
達成目標は「小説を読んでもらうこと」そして「フィードバックをもらうこと」。
どちらもやれることはそんなに多くなくて、通常のFacebookページにおける投稿やtwitterのつぶやきみたいなのを作成して、それを広めてもらう形です。
結果
規約に抵触しているかどうかは忘れてしまいましたので、スクショを貼ります。
625人へのリーチ(視界に入った数)で、87いいねを獲得。そして、クリックはなんと9! つまり、ほとんどの人が「いいね!」はするけど読んでないということになります。
これは最近のFacebookの戦略だと思うのですが、Facebook外部でなにかをしようとすると異常に冷遇されます。ちょっと専門的な話になりますが、Graph APIも「Facebookに投稿する」のは簡単だけど、「Facebookの情報を取得する」のはちょっとハードル高かったりしますね。
なお、これまでゲンロンSF創作講座に投稿された作品のうち、もっとも「いいね!」を稼いだのが僕の小説になります。ただ、増えても特にいいことはありません。最終目標である「フィードバックをもらう」にいたっては、ゼロです。
6620インプレッション(視界に入った数)で、179クリックの獲得。
意外なのは、Android端末の方がスコアが良かったということになります。
両者の比較
まず、クリック数(=ゲンロンのページに来てくれた人)という観点からだと、twitterの圧勝。他でtwitter広告を使ったときはそんなにスコアがいい感じはしなかったのですが、twitter広告は「誰のフォロワーに出すか」というものを選べるのがポイント。
今回の講座は有名人が多く関わっているのでそのフォロワーをターゲッティングしました。東さんなんかは18万人近くフォロワーがいるので、ほとんどの広告がその界隈で消費されたことになります。大森さんも4万人いるのですが、その差はたぶんユーザー層の違いでしょう。円城さんも別にフォロワーすくないわけじゃないですからね。そういう意味で、東浩紀さんのフォロワーは意外と(と書いたら怒られちゃうかもしれませんが)ロイヤリティが高いのかもしれません。
また、Facebookで以前から懸念されていた「読まないでいいねしている問題」が広告でも顕著ですね。これは我がことながら「読んであげて?」と思うのですが、Facebookにいるおじさんたちは読まないで脊髄反射してきますね。年齢層の高さも気になります。45歳から65歳男性の「いいね」は「面白かった!」じゃなくて「お、がんばれよ!」的な意味合いなんでしょうね。twitterはURL検索できるんで、エゴサーチすればどんな反応があるかわかるんですけどね。
あとこれは物凄く不思議なのですが、僕は破滅派という文芸サイトを主催しており、その登録ユーザーが2,000人ぐらいいるにも関わらず、そっち方面から加勢の声がほとんど聞こえてきませんでした。なにか、根本的なボタンの掛け違いがあるような気がしています。まあ、でも代表が参加しているというだけでメルマガ送られてもうざいだろうし、悩ましいですね。
結論
Facebookでなにかを宣伝するときは、やはり単体のURLやイベント、作品などにいいねしてもらうより、ファンページのいいねを増やすよう心がけた方がよいかなと思います。人と人とのつながりが強いぶん、動員力はあるので、ファンを増やしてサロンモデルなどに持ち込みましょう。
twitterではクラスタを意識して宣伝しましょう。ただし、宣伝しようとしている作品が特定のクラスタに属していない場合、今回提示した内容よりも効果は落ちるかもしれません。今回は東浩紀という強力なプレイヤーがいたので、「寄らば大樹の陰」ができましたが、いつもそうはいきません。
結論としては、個々の作品を宣伝するより、ファンになってもらうようなアクションを意識した方がよいということですね。
これは小説家に限らず、あらゆるクリエイターに言えるのですが、$30という金額が高いかどうかはさておき、宣伝をやってみるのは重要です。
「効果的な宣伝」というのはけっこう難しく、お金をかけても人が集まらなかったら意味ないし、けちったところで読者を獲得できなかったらそれはそれで無意味です。この落とし所を見つける能力、効果的に響く層を見つける嗅覚は作家として生き残る意味でも重要だと思うので、もし生活に困っていなかったら、月5,000円とかの予算を設定して、その中で最大の効果を出すにはどうしたらいいか工夫していってはいかがでしょうか。
おまけ
今回発表した『おかえり、アセファル』は月間ランキング一位を獲得したので、そのうち好意的な反応だけを集めて自慢して終わりにします。
#SF創作講座 第8回、実作は、自主提出の7作を含め、過去最多の10編でした。ぜんぶ読んでくれたゲストの円城塔さん、河出書房新社・伊藤靖さん、ありがとうございました。ハイレベルな争いを僅差で制したのは、高橋文樹「おかえり、アセファル」。2位は高木刑「キッド・ラクーンの最期」。
— 大森望 (@nzm) November 17, 2016
高橋文樹「おかえり、アセファル」は、凍りついたベーリング海をゆっくり旅する移動式住宅と、それを追いかける生首の話。ぶっとんだ設定がきっちりSFになっててびっくり。こんなSF、読んだことない。https://t.co/NyR8Umdha7
— 大森望 (@nzm) November 17, 2016
講師の大森望先生も激賞! ちなみに、この高木刑さんという人は現在SF講座でぶっちぎりの一位の人ですね。ほぼ毎回選出されてます。ぼくは一回しか選出されていないのに直接対決を制した展開も胸熱です。いままで補欠だったロートルが新進気鋭のルーキーを一撃で倒したみたいでドラマティック!
ちなみに新井素子先生からもお言葉いただいたのですが、「よかったよ!」みたいな一行コメントでした……
円城さんからは講義中に感想いただきました。あとで運営からメールかなにかで送られてくるはずです。
それでは、続いて受講生の反応。
https://twitter.com/himitsukikan/status/797045302108700672
https://twitter.com/obakeguitar/status/797082533942870016
高橋文樹さんの実作「おかえり、アセファル」はプロの書き手の安定感と、ちょっとシニカルなのにチャーミングなところがとても魅力的で、読むのが楽しかった。講評中、円城塔さんが何度か爆笑なさってた。#SF創作講座
— 櫻木みわ (@pinako45) November 18, 2016
面白かったです。「氷河期」「生首」で、何故こんなとぼけた感じの暖かさに。『ファイアパンチ』の絵柄を脳内で浮かべて読みました。物語摂取中「誰が悪者か」を無意識予想してた自分に気づく。
高橋文樹「おかえり、アセファル」 https://t.co/coYoYKGMve #SF創作講座— 升本 (@masumoto_) November 17, 2016
(高橋作品)文章といい、世界観といい、(今までの実作全部読んだわけじゃないけど、割と読んだ立場から)、今までで一番面白かったです。これは本当に短編集に載っていてもおかしくないレベルだと思います。#SF創作講座
— 常森裕介 (@katekyotsune) November 11, 2016
今回の実作は、高橋さんの『おかえり、アセファル』を最初に読んだのだが、選出された梗概の実作化の中では初めて完成した小説を読んだように思った。もちろん、今までの他の実作をけなしているわけでなく、それぞれに見るべきものはあるのだが、小説としての完成度はこれがいちばんだと感じた。
— 中島 晴(haru) (@harunakajima) November 15, 2016
受講生からも好評! いままでで一番!
というわけで、興味を持たれた方はぜひご一読ください。