2016 年 6 月 20 日 282日前)
2,313文字 (読了時間5分)

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半年ぐらい前に購入した本をやっと読み終えたので感想文を書きます。今回読んだのはアンドルー・ペティグリー『印刷という革命』。索引抜きで500P超えの大著で、お値段税抜き4,800円です。

原題は “The Book in the Renaissance” なので、本来は『ルネッサンス時代における書物』みたいな感じですかね。おそらく、「ルネッサンスが凄い」という欧米人の常識が日本人にないので、訳出時にタイトルを買えたのでしょう。

さて、本書で取り扱われるのはグーテンベルクに代表される印刷術がルネサンス期にどのような感じだったのかについて、多くのデータを元に詳細な説明をしていくのですが、内容は大体こんな感じです。

第一部:はじまり
印刷術誕生以前の本(写本)がどうやって作られたかと、印刷術誕生の頃について。グーテンベルクの話もここら辺に出てくる。グーテンベルクが聖書印刷で大損こいて、別の人がそれをひきとった話が面白かったです。
第二部:根づいてゆく印刷文化
書籍市場がどのように形成されたかと、ニュース、娯楽としての文学、教科書など、「コンテンツ」に関する紹介。ここで紹介される「消費対象としてのコンテンツ」の萌芽はほとんどパターンが出きっていて、現代もそれほど進化していないというのは驚きです。
第三部:論争
論争文学(ルターがローマ教皇を批判する)を例にあげて紹介されるのですが、当時は印刷術の初期は検閲がほとんど行われず、また行われたとしても別の地域に移動してしまえば余裕で出版できたようです。幾つかの中心的な都市(パリ、ヴェネツィア、ヴィッテンベルク、ラプツィヒ)が印刷業の中心地として発展していきます。
第四部:新世界
自然科学(天文学、医学、数学)などの本が次々に出版され、地図や図鑑などのヴィジュアルブックが学問の発展に大いに寄与したような話が語られます。特に自然科学の分野では図版入りの本が刷られるようになったのは重要だったようで、個人的には薬学の話が面白かったですね。日本語でも「カスミソウって英語でなんて言うんだろう?」なんて思うことはよくありますが、「◯◯という花の薬効は☓☓である」ということを伝えるのは至難の業だったようです。当時はどの国も標準語さえ怪しかったですしね。そこで、図版が大いに役立ったというわけです。

この本の特徴として、まずデータが多いという点が挙げられるでしょう。最近の人文系研究所に顕著なのですが、「大量のデータを集め、それを分析する」という仕事が多いですね。これはやはりインターネットの影響でしょう。本書もあとがきで認めています。

もちろん、それはGoogleで検索するというのではなくて、たとえば「16世紀にどんな本が出ていたか」ということを知るための資料として、「蔵書目録」というのがあるわけです。これは常にアップデートされて管理されていたわけではなく、印刷業者が潰れてその財産が売りに出されるときに作成されるらしいんですね。で、それを現代の研究者がまとめるのですが、国をまたいでそれを集計するとなると、やはりインターネッツの力を利用する必要があります。ピケティ本もそうでしたよね。別に新しい事実が書いてある文献を発見したとかそういうわけではなく、すでに存在するデータを膨大な量分析したら新しい事実がわかったと。

したがって、本書を読んでも「印刷にはこういう意味があったのかー!」とズバリわかるようにはなりません。それよりも、積み重ねられている小さな事実から何を学ぶかでしょう。

僕がこの本を手にとったのは「電子書籍時代の参考にするため」という一点なのですが、色々と学ぶことはありました。

たとえば今だったら「キュレーション」という行為はほぼパクリと同義ですが、そもそもルネッサンス当時はパクるどころか、単にアリストテレスの本をラテン語で出すというそれだけのことが十分に出版ビジネスたりえたわけです。ニュースも今とはぜんぜん状況が違って、市民は内戦の結果がどうなったのかさえ知らなかったので、戦果を伝えるパンフレットが飛ぶように売れたそうです。

また、出版という行為はかなり長い間「ものすごく元手がかかるビジネス」であったわけで、本一冊の値段もウン万円ぐらいしたんですね。でも、それ以前(写本の時代)は一冊ウン十万とかだったので、安かったわけです。その代わり、「印刷で作った本はクソだ」みたいに言う人もいたりして、なんだか今の「電子書籍はクソだ、紙の本こそ至高」って言っている人たちみたいですね。紙の本はいまブックオフで100円ですもんね。

図書館が黎明期にどのような使命を負わされていたのかも、昨今の図書館事情と照らしあわせて読むと面白いです。

そんなわけで、まとめますと、本書は印刷術が人類史にもたらしたインパクトについて超越的な意味を述べるというより、印刷術黎明期に人々がなにを行っていたかについて丁寧に事例を重ねていった歴史書になります。あなたがインターネットや電子書籍などといったものにメディア史的な興味を持っているなら、大変興味深く読めることでしょう。そうでないなら、トリビアルで退屈で高いだけの本です。終わり。

印刷という革命:ルネサンスの本と日常生活

印刷という革命:ルネサンスの本と日常生活 [書籍]

著者アンドルー・ペティグリー

クリエーター桑木野 幸司

出版社白水社

出版日2015 年 8 月 20 日

商品カテゴリー単行本

ページ数646

ISBN4560084432

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この記事はが2016 年 6 月 20 日に読書日記の記事として公開しました。

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神だって人間を創るとき、新たな創作ができなかったのか敢えてそうしなかったのかは知らぬが、いずれにせよ自分の姿に似せて創った。だからこそ、同時代の作家から一場面をそっくり盗み出していることがあるとアホな批評家に非難されたとき、シェイクスピアはこんな言葉を口にできたのである。「私はうら若い娘さんをお下劣な連中とのつきあいから救い出して上品な社会に入れてやったのです!」同様の批判を受けたとき、これも同じ理由からモリエールはもっと素朴にこう答えている。「俺は見つけたらすぐ自分の財産にする」シェイクスピアもモリエールも正しい。才能あるものは盗まず、奪い取るからである。

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