これまで10作に満たない本しか発表していないにも関わらず文学賞を受賞しまくり、しかも近年の刊行ペースは5年に一冊という全小説家から羨望の眼差しで見られているカズオ・イシグロ先生の新作プロモーション講演会があったので行ってきました。
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最新作『忘れられた巨人』はイシグロ先生の新境地となるファンタジー。舞台は5世紀から7世紀あたりのイングランドなのですが、読み始めた当初はそれすらもわかりません。中世ぐらいの話なのかなーということが伝わって来るぐらいで、そもそも主人公達がなにものかもよくわかりません。というのも、主人公の老夫婦はすぐに記憶をなくしてしまうからです。
この記憶がなくなる原因は徐々に明らかになっていき、どうも自分たちには息子がいたはずで、その息子に会いに行かなければならないということがわかってきます。老夫婦達は息子を探す旅に出た直後立ち寄った村で鬼に襲われます。そこで鬼に噛まれた少年と鬼を撃退した剣士ウィスタンに出会い、道中を共にすることになります。途中、アーサー王の騎士がウェインと出会うことで、どうやらガウェインと主人公の老人アクセルおよびその妻ベアトリスが知り合いっぽいことがわかってきます。ここら辺から冒険小説的な色彩を怯えて来るんだね、お姫様。
この本では、記憶を奪う霧が重要な役割を果たします。その霧はどんな原因で出ているのか、老騎士ガウェインと若き剣士ウェスタンの使命は何か、そしてそもそも主人公の老夫婦はなにものなのか。記憶を奪う霧を晴らすという妻ベアトリスの願いと、なんだかよくわからないこの物語の全容を知りたいという読者の願いがちょうど一致してる感じですね、お姫様。
この本で『忘れられた巨人』という書名は失なわれた記憶のメタファーとして働きます。この巨人を起こすべきか、忘れたままにすべきか? 過去が徐々に明らかになると共に、忘れていた記憶のいかんともしがたさが蘇ってくるわけですね。個人的には最後の秘密がちょっと胸に迫るものがありましたよ。やはり英雄とてその罠から逃れられぬか、とね。
前作の長編『私を離さないで』ではSF的な意匠をうまく使っていた印象ですが、今回は逆方向の古典的な意匠をまとってきたというわけです。解説によると、この手法は驚きをもって受け止められたようですよ、お姫様。
そして講演会へ
作品を読んでから講演会があることを知ったのですが、見事当選。で、さっき行ってきました。会場はわりと賑わっていて、トイレに行くときに「おお、カズオ・イシグロじゃん!」と思って話しかけようとしたら普通の客だったということが二回ぐらいありました。スーツにノータイでメガネかけたおじさんって、たくさんいるんですね……
面白かった部分を抜粋です。
- 小説家の全盛期は35歳から45歳
- 若い頃、文学史の辞典を眺めて作家の代表作をまとめていったら、どの作家も代表作はそれぐらいの年齢で書いていたとのこと。その年齢を超えてしまったカズオ先生としては、そうじゃないといいと思っているけれども、やはりそれは事実っぽいと思っているようですね。若い作家と話すときは「時間はそんなにないぞ、すぐ書け」とアドバイスしているようです。僕もちょうどその年齢なので、来年あたりには畢生の超大作を上梓したいものです。
- プロモーション大変らしい
- カズオ先生は「日本人なのに日本語を話さない英語作家」という大変稀有な存在なのですが、新作を出すたびに何カ国も回ってプロモーションしているみたいですね。海外の作家は「エージェントと一緒に全国バンドワゴン」というバンドマンみたいな活動をすると聞きますが、カズオ先生もその例に漏れない様子。商売は楽じゃないのだよ、お姫様。
他にもいろいろありましたが、忘れました。全体的にちょっと雰囲気固かったですね。
なお、みんなの質問コーナーがあったので僕も「カズオ先生は日本語を話さない英語作家なので、イディッシュを話さないドイツ語作家のカフカに似ていると思うのですが、シンパシーは感じますか」と書いたのですが、採用されず。まあ、仮に採用されたとしても、アイデンティティに関わる部分なので答えづらいと思いますがね。
そうそう、こうした作家への質問募集コーナーでは「作家を目指す人へのメッセージを」というのが毎度挙がるんですが、「いいから書け」と「大変だからやめろ」以外の回答を聞いたことがないので、もうやめた方がいいんじゃないでしょうかね。
というわけで、今回もカズオ・イシグロの作品は面白かったので、オススメです。いま世界的には村上春樹の次に有名な日本人作家なんじゃないですかね。ちなみに、「お姫様」というフレーズは本作を読めばわかります。