ご無沙汰してます。高橋文樹です。
先日国際ブックフェア2009にいってきたので、いまさらながらリポートです。
ブックフェアに行こうと思ったのは、他でもなく、専門セミナーの「出版産業の課題解決に向けて——これからの取引・流通・販売のあり方とは——」が無料かつ面白そうだったからです。
僕は破滅派をやっており、そこで作成した同人誌をhamazon.comというWebサイトで販売していますが、そんなに儲かるものではありません。
Web業界に身を置いていることもあり、ECサイト作ったから売れるというものではないことは知っています。
在庫管理や人材コスト、なによりマーケティングの重要性についても多少はわかっているつもりです。
リアル流通でまったく売れないものがWebで売れるということはないですからね。
「Webになったら儲かるようになった商品」というのは、単に「リアル流通の損益分岐点にあったが、リアル流通のコスト分をWebに振り替えたら儲かるようになった商品」だったりするわけです。
以前、新潮新人賞で同期だった大澤信亮さんから聞いたんですが、ロスジェネとかはそんなに儲かっているわけではないようです。
破滅派はいわゆる出版流通に載っていないし、人件費・原稿料が勘案されていないので、売上の4割が利益です。原価は部数を増やすほど下がりますし、規模を大きくすればビジネスとしてもなんとか成り立つんじゃないかと思っていたんですが、ロスジェネの話を聞いてことはそれほど簡単じゃないなと思うようになりました。
読者がその本に対して払う対価をどのように分配するか、それが鍵だと思っていたわけです。
そんなわけで、参加したセミナーの要旨を以下にまとめます。
出版産業の課題解決に向けて
——これからの取引・流通・販売のあり方とは——
コーディネータ
- 星野 渉(文化通信社)
パネリスト
- 菊池 明郎(筑摩書房)出版社
- 小城 武彦(丸善)大手書店
- 安西 浩和(日販)大手取次
- 近藤 敏貴(トーハン)大手取次
- 田中 淳一郎(NET21)書店連合みたいなやつ
議題
議題は取引の問題に限る
- 雑誌に依存した出版モデルは斜陽にある
- 雑誌と比べて無駄の多い「書籍」が自立した採算を取れるのか
- 各自の意見
各自の意見
日販 安西
- 書籍は赤字
- 返品率40%、4兆円動いて2兆円が売上
- 売れ残りのリスクは出版社が背負っていた
- 書店は競争力をつけても実入りが少ない、書店にメリットのあるスキームが必要
- 返品をした人が損をする仕組みを作るべき
丸善 小城(元通産官僚らしい)
- マーケティングが弱い、委託は甘えの温床
- 書店がリスクを取り、利益を上げる力をつける必要がある
筑摩 菊池
- 出版界の疲弊は他メディアとの競合よりも、委託販売制度の限界では?
- 出版点数、部数が増えてしまっているのも、返品率を上げている
- 配本制度も無駄がある
- 書店のマージンを35%に → 35ブックス
トーハン 近藤
- ニッパンにおおむね同意。
- 値引きができないのは変
- 商品ごとに取引内容を変更できるような制度が必要
NET21 田中
- NET21は複数の書店が集まって共同仕入れなどをする(零細書店ホールディングス?)
- 配本の精度が悪いので、返品率が高い
- 取次を変更したとき、いらない新刊をカットした。返品率45%→35%
- 書店と出版社の間に契約関係はなかった。これからは三者で契約を結ぶ方がよい。
- 書店、出版社、取次の思惑は三者三様であり、イニシアティブを取ったところが利益を得るべき
返品率はマーケティング力の向上で減らせるか?
- 顧客との接点にあるところ(小売り)が商品を決めるべき。すべての小売りはそうしている
- ドイツは再販禁止で、完全買い切り。返品率は5%程度。日本は約40%
- ドイツのある書店はチェーン2店舗で、ラインナップが重なるのは半分のみ。独自の品揃え
- 日本の自動配本は問題あり。全体の4/1は一冊も売れないで返品
- 追加発注も問題あり。どうせ配本されないと思って、追加注文をするのが多すぎる
- ドイツ、イギリスの新刊点数は日本より多い
- ドイツはリメインダーマーケット(安売り本)も8%ぐらいある
発注スキルは上がるのか
- 書店員も実物を見てから売りたい。見本配本的なものがないと、何が売れるかわからない
在庫の偏在
- 東京にぜんぜんない本が地方にたくさんあったりする
- 在庫調整はやろうと思っている(すぐにはできないと、取次の弁)
マージンの話
- 書店
-
- 23%だけど、35%ぐらいは欲しい
- 書店は新規参入がない(儲からない)
- 正社員は減っている。男性は結婚すると退社する(書店員は家族を養えない)
- 版元
-
- 60%以上は出せない。原資がない
- 日本の書籍はドイツと比べて半額以下。非常に安い。価格を上げるべき
- 取次
-
- 書店次第。定価が安い
- マージンあげるよりも返品が減った方が出版社は儲かるよ!
雑感
とまあ、だいたい以上のような感じでした。
「書籍は雑誌より儲からない」というのは、意外でした。最近、ついに漫画単行本が漫画雑誌の売上を超えたという情報を知ったばかりだったので。
以前流通に関する本を読んで、「どすこい出版流通」を読んで同人誌を思うというエントリーを書きましたが、状況はあんまり変わってないですね。
他、ブックフェアで面白かったことを上げます。
一応国際的だった
国際ブックフェアと銘打っているぐらいなので、各国がブースを出しています。
現在Twitter界隈をにぎわせているイランのブースで「おすすめの現代作家教えて」といって教えてもらったSohrab_Sepehriなんですが、そのブースにいたお姉さんが「この人私の親戚よ」と言ってました。
イスラム圏のこのユルさはいつでもpsycho〜ですね。
他、デンマークのブースには、「純文学作品および一般文化的な専門書の翻訳援助申請」という用紙が置いてありました。
たぶん、日本語作品をデンマークに紹介するときに援助を受けられるシステムだと思います。
「途中下車」を申請してみようかな? 他、我こそはと思われる方がいらっしゃったら、この用紙を送ります。
業界誌的なもの
あと「おっ」と思ったのは、日本書籍出版協会が出しているマニュアルの類いですかね。僕が買ったのは以下の4点です。
- Magazine Data 2009
- 雑誌の発行部数が載っている。印刷証明付きなので、リアルな部数がわかるかも! 週刊少年ジャンプって、もう280万部しか売れていないんだね…
僕が中学生の頃はたしか700万部でした。
- 出版契約ハンドブック
- 出版に関する契約についての手引き。出版の契約書なんて、どのタイミングで書いたのかまったく覚えていません。
ただ、最近の漫画家が編集者と揉めているのを見ると、読んどいた方がいいかも。純文学はもうそういうことじゃないけどね!
- 翻訳出版の手引き
- 酒井法子がかつて台湾で異常な人気をほこったように、僕の本がどこかの国で異常に受け入れられることもあるかもしれないので、買ってみました。
- 外国語出版・国際共同出版マニュアル
- 「なんかよくわかんないけど外国語話者とコラボしたら面白いのでは」という藤原ヒロシ的な発想で買ってみました。
というわけで、遅まきながらレポートしてみました。
ちなみに、セミナー会場を後にして喫茶店でボーッとしてたら、会社の上司にもらったロレックスをなくしたことに気付きました。
慌てて会場に戻ったら、なんか五人ぐらいでよってたかって探してくれて、きれいなお姉さんのポケットに入ってたのを渡してくれました。
というわけで、暇な人は国際ブックフェアに行ってみるといいと思います。