出版というのは斜陽斜陽と言われつつ、なんだかんだで強固なメディアです。衰退はするでしょうが、向こう100年ぐらいの間は出版社というものがなくなることはないでしょう。大学の先生が言っていたスコラ哲学だって亡びるのに300年ぐらいかかったという言葉が思い浮かびます、はい。
で、例によって破滅派の話ですが、最近はこのままある程度は続けていけるなという感じがしています。Webで広く同人を募り、出版という資金が発生する領域で編集方針を発揮するというやり方は、有効のようです。
この点に関しては現在、同人誌運営にあたるWeb利用についてのまとまった記事を書こうとしているので、そちらをご参照ください。
現在、破滅派は作った同人誌を色んな書店さんに置いてもらっています。東京以外はちょっと行けないので、現状では大体下記のような感じです。基本的にはhamazon.comの書店一覧で見られます。
- 模索舎さん(新宿)
- タコシェさん(中野)
- BASARA Booksさん(吉祥寺)
お恥ずかしい話ですが、ぼくはWebの世界に触れてからまだあまり日が経っていないため、つい半年ぐらい前までは「すでにhamazon.comにて通販を開始しているのに書店に置く意味あんの?」とか思ってました。
ところがどっこい、世の中のすべての人がWebを見ているわけではなく、破滅派の読者・あるいは潜在的読者がhamazon.comに辿り着く可能性というのはそんなに高くないということを理解しました。
要するに、製造の仕方(と、その改善方法)はわかったのですが、今度は「実際に手にとって読んでもらい、対価として報酬を得ること」つまり流通について気になるようになってきたわけです。そこで以下の本を読んでみました。
価格¥1,980
順位960,491位
著田中 達治
発行ポット出版
発売日2008 年 7 月 18 日
これは筑摩書房の取締役営業局長であった田中達治さんという方が書店向けの通信冊子に書いていたコラムをまとめたものです。すでに故人となられているようです。ずいぶんお若くして亡くなっています。やりたいこともたくさんあったでしょうし、さぞや無念だったでしょう。僕は三日後に死ぬことになっている夢をたまに見ますが、あれは焦りますね。
就職活動をちゃんとやった人は業界地図などを見たことがあるでしょうが、あの類の本によると、「出版」カテゴリで一番大きい企業は講談社や小学館ではなく、トーハンやニッパンなどの取次ぎだったりします。あと、書店というのも大きな存在です。ぼくは小説しか書いてなかったので、ここらへんの知識はすっぽり抜け落ちてました。
前掲書には流通機構の改革ネタが結構多くて、書店共有マスタの話とか、自動発注・返品などの話がよく出てきます。関係ない人は全然面白くないと思いますが、同人誌の運営をしているぼくには興味深い話でした。
出版社を作ることというのは、実は難しくないです。会社法が変わってから、誰でも会社を作れますし、地方小出版流通センターを介せば、一応、出版社の仲間入りをできます。ここら辺の経緯については、以下の本に詳しいです。
価格¥3,199
順位1,175,784位
著南陀楼 綾繁
編集串間 努
発行晶文社
発売日1999 年 8 月 5 日
そうはいっても純文学
現状、純文学を読んでもらうために出版社を作るとして、難しいのは利益を出すことです。現在あるメジャー文芸誌4誌を考えても、経常利益で黒字のところはたぶんないでしょうし、たとえ僅かに黒字が出たとしても、それなりの試練を経た優秀な人間が集まってそういう状況なので、一介の同人誌が運営を続ける状況を作り出すのは難しそうですね。
既存の出版流通システムの仲間入りをするというのは非常に魅力的ですが、違った方法を考え出し、ブルーオーシャンへ漕ぎ出す必要がありそうです(ちょっと古いかも)。
ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)
価格¥1,000
順位248,905位
著W・チャン・キム, レネ・モボルニュ
翻訳有賀 裕子
発行ランダムハウス講談社
発売日2005 年 6 月 21 日
今、基本的に破滅派を置いてもらっているのは、ミニコミに理解のある書店さんだけです。大きいところでも置いてもらえるところはあるのでしょうが、トーハンの人に聞いたところ、下手に出版社にしてしまうと、敷居が高くなるそうです。人脈を頼りにコツコツ行くのがいいのか、それとも既存の流通システムに乗っかった方がいいのか、こういう点でも微妙ですね。amazonのe託販売というのもありますが、掛け率60%というのはリアル取次ぎとあんま変わんねーなという印象です。
既存の方法をなぞってミニ出版社みたいなのを作っても、絶対成功しないでしょうね。たぶん、何かを失わなければいけない気がします。「どすこい出版流通」には、その鍵となりそうな一節がありました。
最近クロネコヤマトのブックサービスが「おとりよせ@ブックサービス」という書店客注サービスを始めて書店から好評のようだ。このビジネスモデルの骨格は神秘的なまでにシンプルな物流的真理の上に立つ。すなわち、無数の出版社の、あるかないかもしれぬ商品を在庫するのでも、注文するのでもなく、取りに行ってしまうのだ。どこも真似できないし、しようもないビジネスモデルである。出版社がデタラメで物流インフラに無策であり続けたことが、皮肉にもアウトサイダーによって風穴を開けられたということだろう。しかし、本当にそんなことをして商売になるのだろうか。田中達治「どすこい出版流通」ポット出版、2008、p.152
鍵となるのはマーケティングか、ロジスティックスか、ファイナンスか。どこかに無料コンサルタントはいないだろうか。
ところで、ぼくはこれまでベンチャー企業の社長というのに何人かお会いしたことがあるんですが、みなさん営業上手な方ばかりでした。共通の悩みとしては「営業を任せられる管理職がいない」だった気がします。
普通に文学好きな人が集まっても、営業ができる人って少なそう。ぼくも別に得意じゃないですしね。ここら辺は今後大きな課題としてのしかかってきそうな予感がします。