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Gumroadという欲望の門を前にして

高橋文樹 高橋文樹

この投稿は 12年 前に公開されました。いまではもう無効になった内容を含んでいるかもしれないことをご了承ください。
人気過ぎて落ちているGumroad
人気過ぎて落ちているGumroad

先日、Gumroadという誰でも好きなファイルを販売できるプラットフォームを19歳の青年が立ち上げて1億近い資金調達を果たしました。ほぼ似たような機能を持つWordPressプラグインを作りつつ、1億どころか1,000万円ぽっちの資金調達もできないでいる不肖高橋ですが、最近思ってる「欲しいものが欲しい(C糸井重里)」という感情をルサンチマンをなだめつつ書いてみます。

購入は簡単でも、欲望は簡単ではない

Gumroadと同様、ほぼ中間搾取なしで販売できる機能を持った拙プラグインLiterally WordPressを作ってみて思ったのですが、どこの馬の骨ともしれない人間が作ったものを買うのは容易ではないということを最近とみに感じます。

いままで色々な意見を頂戴し、「立ち読みできるようにしては」「ログインのハードルが高いからTwitterとかでログインできるようにしては」などと言われ、そのすべてにちょこちょこ対応してはいるのですが、いまのところ目に見えた効果はないです。100が105になるぐらいの効果はありますが。

僕の好きな漫画家に古谷実という人がいます。氏の著作に『わにとかげぎす』というのがあるのですが、その登場人物にひきこもりの殺人犯がでてきます。その彼はたまたま目の前に表れたヤクザの愛人を殺します。ほんとうにたまたま、目の前にヤクザの隠し金を盗んだ女がいたので、持っていた猟銃で殺すのです。億はあろうかという大金を手にした彼は、ヤクザの愛人の手下二人を拘束し、ついにこう語ります。

あんな大金 目にして……「おおっ すげえ!」って思って……反射的に「ほしい」ってなっちゃったんだけど……結局……別に……いらねぇなぁ……

古谷実『わにとかげぎす』2巻 P.162-163 講談社 2007

僕はこれが欲望の本質だと思います。Twitterがそうしたような、「ブログにコメントを書くことすら面倒だと思う人のために140字という制限を設ける」という欲望達成までのルートを最短化するアプローチをとったところで、勝ち残る勝者のタイプはあまり変わらないような気もしています。Gumroadという「究極的に簡素化された換金システム」もまた似たような帰結を迎えるのではないでしょうか。

私を欲望へと導く隠されたもの

決済機能を作れば「具体的にこれが欲しい」という欲望をお金に換えることはできますが、欲望自体を生むことはできないわけです。いかにして私の文学に対しての欲望を生むか? これが最近の僕のテーマであります。

賢人は歴史に学ぶということで、人の欲望をドライブして上手い具合にお金に変えることのできている新しい仕組みのことを幾つか考えてみます。

SEO

数年前はSEOというのが流行りました。検索エンジン最適化ですね。「何かを知りたい」という人の欲望の萌芽を「なにかが欲しい」に変える現代の錬金術は一大産業として成長しました。

こういうことをうまくやれば文学も売れるんじゃないかなーとか思った時期もありましたが、Web業界で働いて気づいた事実は「ある程度単価の高い商材でないとSEOの効果は薄い」ということです。SEOと言えば、自動車保険、航空券、引越し、ちょっと前は消費者金融など、ある程度単価の高いものじゃないと難しいんですね。Amazonとかもやってはいますが、あれは顧客単価をグロスで見ているので効果が高いわけです。要するに、一個人が自分のためだけにSEOをがんばっても、費用対効果悪いんじゃないかなーというのが現時点の結論です。

ゲーミフィケーション

現在のトレンドといえば、GREE・モバゲーに代表されるゲーミフィケーションです。パチンコ業界と比較されることも多いようですが、無料を呼び水にしてチャリチャリとお金をむしり取るその手法には学ぶところも多々あります。まさかお金を払うとは思っても見なかった人に「欲しい!」と思わせ、財布の紐を緩めさせるその仕組みこそ、まさに現代の錬金術。「人間の射幸心を煽るのが一番儲かる」と結論付けると身もふたもないですが。

ソーシャルグラフ

これはまだ具体的な成果に結びついていないようですが、成長著しいFacebookが2011年のF8で発表したOpenGraphもおそらく成果を上げるでしょう。はじめ聞いたとき、人類補完計画かと思いました。Facebookも基本は広告モデルなので、「欲しい!」の萌芽を膨大なメタデータと行動ログを解析することで見つけちゃおうということなのでしょうが、技術的にできるんでしょうかね。株式上場で7700億(うろおぼえ)も稼ぎ出したので、札束でインテリエンジニアの頬をはたき回って実現するのでしょうか。まあ、エンジニアの側も勝ち馬に乗った方が開発楽しいでしょうしね。

 

とまあ、幾つか事例を挙げましたが、人の「欲しい」を作り出すことができた者、欲望へと至る隠された道を暴いた者が勝利者となることははっきりしています。

欲望から遠く離れて

さて、こうした技術的なプラットフォームがどんどん出そろい、部分最適と全体効率化が進んだところで、奴隷商人は儲かりますが、奴隷は奴隷のままなわけです。「だったら俺も奴隷商人の側に回ってやる!」というのは一個人の選択としては別に構わないのですが、僕は奴隷のまま豊かになりたいです。

思うに、僕の文学が金にならないのは人の「欲しい!」からあまりにも遠いというのが決定的なはずです。だからといって「身近に表れた超自然的な生き物がビジネスマンの心得を教えてくれるという小説風のものを書く」と決意してもしょうがないので、まずは自分が書く文学から欲望までの距離を計ってみたいと思います。その結果、テキストと向き合うときの姿勢も変わってくることでしょう。ちょっと長くなりすぎたので、これは次回「メタメタな時代の曖昧なわたしの文学〜純粋テキスト批判・序〜」においてまとめます。もしかしたら忘れちゃうかもしれないので、気長にお待ちください。

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