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いつわりの感謝でも口にすべき理由

高橋文樹 高橋文樹

この投稿は 7年半 前に公開されました。いまではもう無効になった内容を含んでいるかもしれないことをご了承ください。

以前このブログでもネットワーキングの重要性についてちらりと触れたのですが、最近「人と人との交流は簡単にスペックを超える」という事例を目の当たりにしており、「感謝マーケット」があるのでは、と思うようになってきました。

これはエリートスポーツ選手の育成に携わった人から聞いたのですが、スポーツ選手は感謝を口にするのを合理的なメディア対応として学ぶそうです。そういえば、NFLなんかでも、そういうメディア・トレーニングがあると聞いたことがあります。

最近のスポーツ選手はオリンピックでメダルを取っても「周りの人に支えられて……」という趣旨の発言をすることが多いです。昔、有森裕子さんの「自分で自分を褒めてあげたい」とかいう発言が注目を浴びましたが、あれなんかは結構ギリギリのラインだったんですね。バルセロナオリンピックで負けた柔道の小川直也なんかは「弱かったから負けた、それだけ」と、ある意味事実を述べただけでしたが、ボロクソに叩かれました。まずは周囲のサポートへの感謝を表明するのがデフォのようです。

さらに、エリートのスポーツ選手は、単に「記者会見ではまず周囲への感謝を発言してね」というハウツーを学ぶのではなく、「感謝する」というメンタルセットを取得するよう促されるとか。以下のようなメリットがあるからだそうです。

  • 失敗しても叩かれない。メディア(あるいは世論)やコーチ・監督と良好な関係を築いておくのは重要。失敗しただけでも本人は傷ついているのに、素行が悪いとさらに傷つく(ex. バッシング、補欠送り)ことになる。
  • 「怪我をしてしまったが、試合に出られるだけでありがたい」という感謝の気持ちをデフォにすると、コンディションが崩れにくくなる。

要するに、スポーツをやるうえで合理的な選択だということですね。

で、話を聞いていて面白いなと思ったのは、この「周囲への感謝」というのは、別に心の底からやっていなくてもいいそうです。ただ単に「いいやつ」なだけでは才能が皆無かもしれないですし、試合で非情になれなかったりするので、対戦型スポーツでは結果が残せなかったりするそうな。

うまくいくパターンはエリートスポーツ選手でわりと我が強い若者(対戦競技では多いですよね)が、そうした背景を知り、スポーツで結果を残すための合理的な戦略としてメンタルセットを構築していく過程だそうです。心の底では天上天下唯我独尊でも、隠し通せてればいいんですね。

Facebookで毎日「今日も一日笑顔ですごそう!」とか空の写真をアップしている人は、別に頭が狂ってしまったのではなく、そうしたメンタルトレーニングの流れがビジネスセミナーなんかに受け継がれており、それを実践してるだけなのかなと思いましたね、ハイ。

この話を聞いているときに、「じゃあ、僕はどうすんだ?」と思ったのですが、物書きだと結構難しいように思います。スポーツにおける発話行為というのは、メタ的な要素なのですが、物書きにおける発話行為というのは、ある意味で本質なので。なんというか、魂を売るのに近いところがありますね。そこら辺、この感謝メンタルセットを内面化できている人は強いですね。

ただ、売れっ子作家のムーブを見ていると、一部の変な人は目立ちますが、基本的には周囲への感謝を欠かさない社交上手な人が多い印象です。また、他者への批判もあまりせず、なにかを肯定的に取り上げる以外のことはしないですね。敵を作らないというのは、この業界で生き残るのに重要なようです。

自分のことを振り返ってみると、作家デビューは偉い早かったわりに仲のいい編集者は一人もいないので、そこら辺に課題がありますね。しかし、僕もあと数年で四十になるので、いまさら生き方を変えるのも難しく、ここら辺の課題は子供達や後進の若者たちに受け継ぎつつ、自分はこれまで通りがんばっていこうかなと思いました。

というわけで、いつも読んでくれてありがとうございます。

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