ちょっと固くて大げさなタイトルですが、先日行われた国際ブックフェアに行ってきたので、その感想をば。
昨今、巷を騒がせている電子書籍ですが、今は「電子書籍とはなんぞや」という段階から、「どんなサービスがあるか」という段階まで具体化が進んでいます。
僕が行ったのは土曜日だったので、一般ユーザが出版社のブースに長蛇の列を作っていた(割引で買えるから?)のですが、金曜日は電子書籍のブースが大盛り上がりだったそうです。
たぶん、出版社の人が電子書籍のサービス選定を行うために仕事として来ていたりしたんでしょうね。
で、僕も株式会社破滅派の代表として出版社のフリをしながらいろんなブースを回ってきました。
サービスを大別すると、だいたい以下の3つ。
- iPhoneおよびiPad向けにiTunesで売れる単体アプリをオーサリングできるもの
- iBooksやKindleなどの既存電子書籍プラットフォーム向けのデータ(ePub)をオーサリングするもの
- iBooksのような電子書籍販売プラットフォームを立ち上げたもの
一番多かったのは1で、その次に3ですかね。まだiBooks向けというのは少なかったです。
文芸同人誌という超零細資本がこれらのサービスをいかにして使っていくかについて、ちょっと検証したいと思います。
考えるべき問題点としては以下の2点です。
- オーサリング(コンテンツの変換)コストにはどんな種類があって、どれぐらいかかるのか?
- そのサービスを利用した結果生まれたコンテンツは他に再利用できるか?
1.オーサリングコストはどれぐらい?
オーサリングコストとして取られるのは3種類。
- オーサリングそのものに対する費用
- 作品が売れるたびにレベニューシェアとして取られる費用(テラ銭)
- 契約費用のようなもの(会費)
全部取るところもありますし、一つしか取らないところもあります。ただ、ほとんどのところはテラ銭を取ると思います。取らないところもありますが、そこはオーサリングフィーが8万でした。
オーサリングコストは3万〜5万ぐらいが相場っぽいですね。
テラ銭を取られる場合、これはすなわちAppleやKindleのしょっぴくテラ銭(売り上げの30%〜35%)からさらに引かれるということなので、手元に入ってくるのは60%〜50%でしょうか。
この取り分はおそらく、すでにサービスとして運営しているパピレスとかの相場と同じだと思います。なぜかはわかりませんが、版元の取り分は常に六割ぐらいなんですね。
このあと書きますが、利益計算はこうした数字を加味して行うことになると思います。
2.コンテンツの再利用性
さて、ほとんどの電子書籍オーサリングサービスはPDFや画像を利用しており、コンテンツの作成ツールとしてInDesignを想定しています。
中にはHTMLみたいな独自形式を用いているところもありましたが、テキスト系のものは少なかったですね。
PDFならPDFでもいいんですが、その場合、見えないコストとしてオーサリングフィーの増加が考えられます。
以前、破滅派でもKindle向けにPDFを作ったことがありましたが、結局Kindle向けのサイズに変更する必要がありました。
段落スタイルなどを高度に使いこなせばいろんなレイアウトでパブリッシュできるというのがInDesignの建前ですが、なかなかそこまではできないと思います。Webサイトのカラムサイズと同じ歴史を辿るんですかね。
たとえば、最近話題になったAirもiPhone用とiPad用で2つのアプリを作りましたが、それは「端末の画像サイズの違い」によります。iPad用のものをiPhoneで見ると、小さすぎて一々拡大しないといけなくなりますからね。
いまは端末の選択肢がほとんどないので、iPhoneとiPadぐらいですが、その他の端末が出てきた場合、それに対応する必要がでてきます。
どこも「オーサリング」とは言っていますが、最終的なレイアウトはこちらで用意する必要があるので、このコストはこちら持ちです。
また、iPhoneアプリを生成するようなサービスの場合、書き出したデータがたとえばAndroidマーケットで使えるかというと、使えないと思います。
新しいプラットフォームに対応する場合、再度オーサリングを行う必要が発生し、なおかつコストも発生します。
文芸同人誌胸算用
さて、上記の2点をふまえ、定価500円の同人誌で色々計算してみると…
テラ銭をしょっぴかれて手元に入ってくる売り上げは価格の半分である250円。
会費やオーサリングコストが一回で3万かかるとして、これを消化する最低ダウンロード数は120ダウンロード。
「そんなんでいいの?」って数字ですね。
ただし、これではまだオーサリングコストを回収しただけにすぎません。
ここから原稿料とかを乗っけていくとなると、まともな原稿料を払うには、ムムム…といった感じですね。
今後、AndroidとかKindleとかが少しずつ普及してくれば、その一つ一つに対して「オーサリングコストが幾らで、マーケット規模はどれぐらいで、単価が幾らで」とか色々考えなくてはならなくなるでしょう。
とはいえ、現状ではiTunesしかまともな選択肢はないので、すでに原稿はあって、それを電子化する合意が寄稿者と取れているんなら、やってみて損はないと思います。
まあ、「オーサリングコストが発生」っていっても、サイズ変えればいいだけなんで、そんなに大変ではないですね。
特にいまは電子書籍を出すことそのものがプレゼンスを高めることになるので、やって損はないと思います。
破滅派も出そうかなっと思っていますが、僕以外の誰かがInDesignをいじってくれないことには時間的に無理っぽいです。
破滅派でInDesign勉強会でもやろうかな。
いずれにせよ、理想の形式は「一回コンテンツ作ったら電子書籍も紙の書籍も『ポチッとな』で作れてしかもテラ銭はタダ同然、マーケティングフィーも原資いらず!」というものであることに変わりはないので、早くそうなんないかっと。