本日、マガジン航が主催するセミナーに参加してきました。ニューヨークで翻訳出版エージェントをしている大原ケイさんのお話だったのですが、海外デビューをするしないという僕の野望とはまた別に、「これって日本国内でもやった方がいいんじゃないの?」と思ったことがありました。
それは、クエリレターという耳慣れない単語です。
日本だと作家デビューの手っ取り早い方法は公募に出して新人賞を取ることなのですが、アメリカでは新人賞というのはいっさいなく、作家—エージェント—出版社という感じで、ワンクッション入るんですね。
となると、作家としては自分が描いた作品をエージェントに売り込むことになります。そのときに、A4用紙1〜3枚で自分の作品の魅力を伝える手紙を送るらしいのです。これをクエリレターというそうな。
僕はアメリカの作家が自分の作品を売るために全国ツアーしたりするDIY感を見習いたいと常に思っているのですが、たしかに自分から売り込むことをしていないな、と気付いたわけです。
2ヶ月ぐらい前に、独立作家同盟のセミナーに参加したのですが、コルクの佐渡島さんと話したときに「どんなの書いてるんですか?」と聞かれたんですね。で、僕としては21歳で作家デビューしてからほんとにいろいろなものを書いていて、根が飽き性ということもあるので常に新しいものを書こうとチャレンジし続けてきたわけで、本人としてはずっと真面目に書いてきたつもりでいたのですが、いざ「何書いてんの?」と聞かれると、「まあ色々書いてます」としか言いようがないわけです。
しかしながら、商売と考えると、「なにか色々やってるやつ」と「明確にこれと言い切れるやつ」では後者の方がわかりやすいのも真実。そういう意味で、僕は僕の作品の魅力を伝えるなにかを作らないといけないなわけです。
で、大原さんが紹介したクエリレターがちょうどそのフォーマットとしてふさわしいと感じました。
では、クエリレターとはなんでしょうか? ググってみたところ、サンプルが見つかったので、訳してみます
クエリレターの例
親愛なるコール様
【1】あなたのエージェンシーのサイトを拝見したところ、子供向けの小説〔訳注:middle-grade novelというのは8〜12歳向けの小説らしい。日本ではポプラ社や岩波少年文庫あたり?〕をお探しとのことでした。そこで私の小説『ほんのすこしの空』をご紹介させていただければ幸いです。
【2】この小説で私はハイライト基金の文化講演会主催のワークショップで奨学金を取ることができました。スマート・ライターW.I.Nでも好意的な書評をいただいています。
【3】『ほんのすこしの空』は元気があって向こう見ずで夢見がちな10歳の少女、パイパー・リー・ディリューナーについての物語です。いなくなってしまった父への強い憧れは、母親の再婚によって脅かされます。
【4】他のみんなは父の死を受け入れていましたが、父の遺体が飛行機事故から見つからなかったことで、パイパーはこんな夢想を抱くようになります。いつの日か父が蘇り、父の事故によって彼女が抱いていた罪の意識から解き放ってくれる。彼女は母の再婚相手であるベンと彼のお姫様のような連れ子であるジンジャーに対して、頑なに好意を抱こうとしませんでした。
【5】結婚を阻止する決意をしてから、パイパー・リーは「ティナ発見作戦」を立案します。ベンと彼の前妻によりを戻させるための確固たるプランです。しかし、パイパーは計画の第一段階が成功するや否や、ベンの働く刑務所で暴徒が脱獄し、すべてが脅かされるようになってしまうのです。
【6】少年少女たちは周囲の人や物事をよく観察し、未来について思いを馳せます。読者はパイパー・リーに共感するでしょうし、彼女を魅力的なヒロインだと思うでしょう。なぜなら、パイパーは過去を心で慈しみつつ、未来を受け入れるからです。
【7】この物語はジョージアの海岸地域を舞台にした、約33,000語の作品で、ケイト・ディカミーロの『ウィン・ディクシーのせいで』と同じテイストです。
【8】私はこども文学教室を1990年に卒業し、私の作品はU*S*キッズ、チャイルドライフ、コロンビアキッズ、トゥルーラブ、ガイド、ストーリープラスから出版されています。
おそれでは、お時間いただき、ありがとうございました。最初の10ページを同封します。お返事おまちしております。
敬具 ダイアナ・ウィンゲット
クエリレターへのコメント
[1]よくできてる。クエリレターでは、自分がやるべきことをやり、この特定のエージェントが好むかどうかをはっきりさせるべきだ。エージェントは自分がこの作家と長く付き合うべきかどうかを知りたがっている。
[2] 受賞歴から書くことは稀だが、子供の世界ではハイライト基金のワークショップはそれなりのものなので、注意を引くだろう。もし似たような受賞歴があるなら、いずれにせよ、最初から書いたほうがいい。受賞歴がないなら、まず作品について始めるべきだ。
[3] 作品について説明するときは、ダイアナのように、主人公が世界になにを求めているかを伝えよう。我々はパイパー・リーがなにを大事だと思っているかがわかるので、すぐに彼女を大切に思うようになる。これが重要だ。
[4] クエリレターでは登場人物についてありきたりな説明をするだけではなく、彼らが何者であるかを書くことが重要だ。再婚相手と義理の妹が現れることで、摩擦が生じる。これが面白くするための重要な要素だ。
[5] パイパー・リーの綿密な計画は彼女をよく物語る。そして、その後の悲劇とよく結びついてる。この緊張感こそエージェントが小説に見出したいものだ。
[6] 私は作家がクエリレターを書くときにあまり自己分析的になってほしくはない。ダイアナはこの段落(とくによくわからない「少年少女たちは周囲の人や物事をよく観察し、未来について思いを馳せます」という部分)をすっぱり切って、ストーリーについてもっと語ってもよかった。
[7] この段落は必要十分でよくできている。クエリレターを書くときは作品の定量的な情報(ジャンル、対象読者、文字数などなど)を含めよう。そして、似た様な作品があり、それが自分の作品にとって脅威とならない場合だけ挙げよう。「ジェイムズ・パターソンとダン・ブラウンがここに融合した」と言い張ることは無意味だ。ダイアナの比較は彼女が現実的で、長く付き合うに値すると思わせてくれる。
[8] 略歴は短くわかりやすい。これこそ我々が求めているものだ。基本をきっちり抑え、なぜそのエージェントにこの作品が向いているかを伝えることができれば、エージェントは原稿をよませてほしいと言ってくるだろう。
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さて、どうでしょう。率直にいって、僕は「こんなに媚びなきゃいけないの?」と思ったりしたわけですが、まあ、しょうがないですね。出してもらうんですから。
とはいえ、KDPのように自分で市場に直接出せるとしても、読者にクエリレターのようなものが提供できたら、それはそれで便利なんでしょう。
とりあえず、自分の作品すべてにクエリレターをつけつつ、それを英訳してアメリカのエージェントに片っ端から送り、海外デビューを目指したいと思います。終わり。
価格¥1,765
順位188,490位
著クレイグ・モド
翻訳樋口武志, 大原ケイ
発行ボイジャー
発売日2014 年 12 月 15 日
大原ケイさん訳だそうです。