これはもともと佐川恭一さんを応援する意味で書いた記事に書こうと思ったのですが、バランス悪くなるので書かなかった創作論です。
少し前に柔道の五輪金メダリスト古賀稔彦さんが逝去されました。古賀さんは僕のような世代の柔道家にはスターであって、膝を痛めた状態でのバルセロナ五輪や小川直也と7分に渡る激闘を繰り広げた全日本選手権などが思い出に残っています。僕も高校時代は古賀選手に憧れて一本背負いを練習しました。
さて、そんな古賀選手ですが、引退後に一冊の本を出しています。
申し訳ございません、このリンクは現在利用できないようです。のちほどお試しください。
岡野功『バイタル柔道』などの名著は多いですが、古賀の本を読んで驚いたのは「背負い投げの古賀」というイメージの裏には凄まじい数の工夫があったのだなということがわかります。
- 相四つ(右組手VS右組手)の場合でも左の引き手は相手の右脇の下に順手で持つ。これにより、自分よりも大きな相手との距離を空けることができる。かなり独特な持ち方です。
- 喧嘩四つ(右組手VS左組手)の場合によく使う首投げは、北京オリンピックでの敗戦から編み出した。引き手を嫌う左組手の相手対策。弟子の谷本歩実もこの首投げを得意としていました。
他にもいろいろ工夫はあるのですが、古賀という選手は背負い投げという非常にポピュラーな技に様々なバリエーションを持たせ、世界最強の技にしていたわけですね。引退前に出さなかったのは、研究されるのを防ぐためでしょうか。
ちなみに、神田の道場には古賀塾の出身者がたくさんいて、脇の下を押し込む独特な組手をしていました。
柔道の投げ技は68手、このうち試合でよく使う決め技となるのはそんなに多くありません。背負い投げ、内股、払い腰、大外刈り、袖釣り込み腰、体落とし、巴投げとかそんなところです。ただ、強い選手は磨き上げた技を様々な工夫によって自分だけの一流のものにしているように見えます。
これは創作にも通じるところがあって、どんなに器用に見える作家でもうまくいくパターンは多くて三種類ぐらいでなのですが、優れた作家はマンネリズムに陥らずに様々な工夫を凝らしています。この「決まったパターンを持ちつつそれを工夫して磨き上げていく」というのは大事な気がしていて、ダメなパターンは……
- 同じモチーフ、キャラクターなどを書き続け、それにほとんど変化が見られない。
- 引き出しは多いがどれも浅い。
という感じですね。
「神は細部に宿る」といいますし、細部に工夫を凝らしつつありきたりな自分だけの得意技を磨いていきたいものです。終わり。