2001年なのでちょうど就職不況の時代でしたが、大学4年の夏、僕は幻冬舎の文学賞をいただき、在学中芥川賞受賞を目指して絶賛留年確定中というモラトリアムにいました。
周囲もまた将来の道筋をなんとなく固めており、明暗がわかれつつある、という感じでした。傍目にも勝手に「こいつはいい会社、こいつは悪い会社」などと分類していたような気がします。で、秋頃になると内定者たちの間に就職活動でできた人間関係というのがチラチラするようになりました。
そんな折、クラスも学部も違うある同級生から飲み会に誘われました。仮にA君としましょう。
A君とは体育の授業で少し話すようになり、その後も専攻とは関係のない授業で顔を併せるぐらいの間柄でした。昼飯ぐらい一緒に食べたかもしれません。
このA君、民放のキー局の内定を2社とるというとんでもない逸材で、内定を蹴られた方の会社は大変な騒ぎになったということを本人から聞きました。また、その2社から内定を取るためのコネ作りメソッドに感心したのもよく覚えています。
そんなA君が誘ってくれた飲み会というのが、優秀な学生だけが集まる飲み会というシロモノで、要するに大手企業に内定したイケてる学生だけが集まる会だったんですね。民放キー局とか、三井物産とか、電博とか、Sonyとか、そういうことです。いまなら「意識高い系」と揶揄されるような人たちでしょうか。
就職せず作家として生きていくことを決めていた僕がなぜそんな会に誘われたかというと、たぶんAERAにインタビューが載ったからだと思うんですが、彼らのお眼鏡にかない、イケてると認められたんでしょう。
その飲み会自体は普通の飲み会だったのですが、会話の最中にA君が共通の知人B君のことを挙げて、「お前、なんでBなんかと仲良くするの? 付き合う奴選んだ方がいいぞ」という旨のアドバイスをしてきました。B君はあんまりイケていないのですが、仲の良い友達でした。
そのときはめんどくさかったので「別にいいじゃん」とだけ伝えておきました。
結局のところ、僕はA君のアドバイス通りにはせず、B君との付き合いはその後も続け、いまもたまに飲んだりしてます。
一方、A君と最後に話したのは吉田修一さんが芥川賞を受賞した日のことです。芥川賞と直木賞だけがTV局の取材が入る文学賞だと思うのですが、彼はその取材に行き、現場から僕に電話をかけてきました。「おまえはそんなところで何をしているんだ」というような激励を受けました。が、僕はそういう激励に心を動かされるタイプの人間ではないですし、バイトの真っ最中だったので「会社の看板で取材言ってるのに何言ってんだ?」と特に発奮することなく電話を切ったのですが、それっきり連絡は途絶えました。
僕も自分から積極的に人と交わっていくタイプではないのですが、おそらくA君の場合は、「俺のイケてる友達リスト」から外されたんだと思います。
「友達はポケモンじゃないからイケてなくてもいい」というのが僕の信条なので、そこら辺のポリシーは合わなかったのですが、A君の功利的な友人選別というイケてなさを僕は受け入れなかったわけなので、どっちが悪いという話でもないです。寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか
——そんなことはわからないので、ただ一切は過ぎていきます。
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facebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグは「すべての人が知り合いからニュースを聞くようになる」と言っています。それってほんとかな。
facebookで僕の友人がシェアしてくれるメッセージには、クソのような自己啓発マントラや2ちゃんのDQNこらしめネタ改編Verが混じっています。紹介される映画や本に「よくないね!」としそうになることもしばしば。
かといって、その友人から届く「子供が生まれた」「結婚した」というしらせに「いいね!」しているのが義理かというと、そんなことはなく、友人の幸福に対する喜びから「いいね!」しています。
その「いいね!」はお猿さん同士の毛繕いみたいな友愛のコミュニケーションであって、「貴重な情報をシェアしてくれてありがとう」という意味ではありません。
映画『ソーシャルネットワーク』の中でザッカーバーグがあれだけ入りたがった大学サークルとA君が主催していた飲み会には通ずるところがありました。人間関係を積極的に整理していく流儀を貫いている人にとっては、facebookのタイムラインも違って見えるのかもしれません。趣味の合う友人から意識の高い情報がシェアされ、感度の高い人が集う楽しいイベントが毎日開催。
ただ、パーティが嫌いな人もいるし、パーティの主賓だったけれども今はパーティに呼ばれなくなった、なんてことも人生にはつきもの。社交が重要になってその比重が大きくなるほど、知り合いではない人との出会いは重要になっていくんじゃないかな。
春は出会いと別れの季節なので、そんなことをふと思いました。
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