僕は三十一歳で、そのとき小田急線8000系のシートに座っていた。その巨大な列車は冬の空気を切り裂いて西へ進み、多摩センター駅に到着しようとしているところだった。一月の冷やかな乾きが大気を澄みわたらせ、エプロンをつけたカフェのギャルソンや、通りの名を掲げるフランス風の青看板や、巨大なイトーヨーカドーやそんな何もかもを悪趣味なモダンアートの背景のように見せていた。やれやれ、また多摩か、と僕は思った。
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…ということで、小田急多摩センター駅にあるシネコンでレイトショー「ノルウェイの森」を見てきました。
普段なら映画を見ただけでは感想を書かないのですが、この映画はあまりにも感じるところがあったので色々書きます。基本悪口です。あと、いままでこのブログに書かなかった下品な言葉もいっぱい出てきます。
注意事項
激しくネタバレを含んでいるため、下記の条件を満たす人は読まないでください。
- 「ノルウェイの森」原作を読んでいない方
- これから映画「ノルウェイの森」を見ようとしている方
- ネタバレに怒り心頭する方
「ノルウェイの森」と私
ついでに自分語りをしておきますが、僕にとって「ノルウェイの森」は非常に特別な作品です。それまではそんなに特別な作品ではなかったのですが、大学生のときにある友人と出会ったことが、きっかけでした。
彼は初対面のとき「ノルウェイの森」を携えていました。僕が村上春樹を好きなのかと訪ねると、彼がとりわけ「ノルウェイの森」を愛する理由について教えてくれました。昔付き合った女が直子と同じようにして死んでしまったからだというのです。それだけなら「そういうバックグラウンドがあるなら、特別な作品になるだろうな」としか思わないのですが、このエピソードがほとんど嘘だとわかったとき、僕にとって「ノルウェイの森」は特別な作品に変ったのです。そんな風に嘘をつかせる「ノルウェイの森」って凄い、と。
というわけで、いささか倒錯した理由ではありますが、僕にとって「ノルウェイの森」は特別な作品であり、ここに書く感想はかなり偏っていることをあらかじめ記しておきます。
映画「ノルウェイの森」感想
気になった点その1:エピソードの取捨選択
長編小説が原作の映画は時間的な制約があるというのはわかるのですが、そこをなんとかして見せるのが監督・脚本にとって腕の見せ所。
今回どんな風になってるのかは一つの見所だとは思うのですが…
まず、直子と対になる緑ちゃんですが、けっこうエピソードが端折られていました。
小林書店の二階で火事を見ながらキスをするシーンがないどころか、逆に雨が降ってました。緑のお父さんとキュウリを食べるシーンもないし、SM映画も見に行かないし、沢山食べていっぱい精液を作るのよ
の下りもありませんでした。僕は小林書店でのエピソードが大好きなので、残念でした。
また、レイコさんを脅かした小悪魔レズビアンのエピソードもなかったです。これがないとワタナベくんとセックスしてなぜ救われるのかがわからないため、レイコさんがなぜか渡辺君に寝てくれと頼み、「救われたわ…」と独白するというスーパーマチズモ炸裂のラストになっていました。
他にも「突撃隊がなぜ突撃隊か」という描写がなかったりなど、おそらく原作を読んでいない人には訳の分からない部分が多かったと思います。そのわりにはキズキの自殺シーンをこってり描いたり。
気になった点その2:セックスシーンが気になってしょうがない
ノルウェイの森にはセックス2回、ハンドジョブ2回、フェラチオが1回ぐらい出てくるはずなのですが、今回は緑ちゃんによるハンドジョブ以外がすべて描かれていました。
まず、冒頭の直子とのセックスで気になったのは、菊池凛子の喘ぎ声がでかすぎること。僕はビックリして思わずガタリと足を鳴らしてしまいました。緑ちゃんは映画館で唾を飲む音を聞くのが好きみたいですが、足を鳴らす音はどうか知りません。セックスシーンでブラジャー着用なのも変な気がしました。別にものすごく乳首を見たいという願望はないですが、上手く工夫してほしかったです。気になってしょうがない。
また、療養所に入った直子にハンドジョブをしてもらうシーンですが、ここも風強過ぎ。あんな風強かったらワタナベくんの精子がどこかへ飛んでって、誰かを妊娠させてしまう恐れがあります。気になってしょうがない。
そして直子にフェラチオをしてもらうシーンですが、これに至っては空撮で引きの画を撮るという失笑モノの映像になっていました。このためにヘリ飛ばしたんだとか、そういうことが気になってしょうがなかったです。
ピチャピチャいう音もなんか気になりました。いま文庫確認したらこうやって書いてあります。
二本目のはわりにまともな映画だったが、まともなぶん一本目よりもっと退屈だった。やたら口唇性愛の多い映画で、フェラチオやクンニリングスやシックスティー・ナインをやるたびにぺちゃぺちゃとかくちゃくちゃとかいう擬音が大きな音で館内に響きわたった。
村上春樹「ノルウェイの森」(下)P.144 講談社文庫 1991
そういうわけで、セックスシーンはあんまでした。一語で表すと「失笑」ですね。
気になった点その3:直子の描写
これは書くのをためらわれる部分ですが、菊池凛子演ずる直子がちょっと呂律回ってないんですね。たぶん精神を病んだ直子を表現するためにそうしたんだと思うんですが、ちょっとやり過ぎの感あり。「上手く話せない」ってそういうことなのかな。「会話の組み立てができない」ということだと思うんだけど…
はじめは菊池凛子の海外生活が長過ぎて発音が英語風になってしまったのかと思いました。
ワタナベ君と話しながら号泣するシーンとかも演出過剰でメンヘラっぽさ全開になってました。どっかの団体から苦情こないだろうか。
その他気になった点
- 松山ケンイチをもってしても、白ブリーフはかっこわるい
- 玉山鉄二の永沢さんはかっこよかった。
自分に同情するのは下劣な人間のやることだ
、って勉強になりまーす - 緑ちゃん役の人はとても美人さんだったが台詞が棒読みでヒヤヒヤした
- 映像は基本的に綺麗だったけど、プールのシーンあったか? この監督は「青いパパイヤの香り」でも思ったけど、前髪が濡れておでこに張り付いた女の人の画が好きなのかもしれない
まとめ
というわけで、いまさらながら映画「ノルウェイの森」を酷評してみました。個人的には原作を読んでいて、イマイチな映画でも突っ込みどころを探しながら楽しめる方は見ても損はしないと思います。
ちなみに、タイトルは最近気になる思想地図βの特集「ショッピング・モーライゼーション」にインスパイアされてのことです。僕の思い出の町多摩センターもずいぶんと様変わりしましたね。