ちょっと前に金原ひとみが「デンマ」「ストロングゼロ」という短編を文芸誌に発表していた時期があって「ふざけてるのかな?」と思ったものでしたが、それと似た感覚を覚えました。そう、村上龍の最新作『ユーチューバー』です。
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「最新長編小説」と銘打たれていますが、実際は連作短編集ですね。タイトルがもう「ふざけてるのかな?」という感じですが、これが思いのほか傑作でした。
まず、本作は明らかに村上龍本人を思わせる矢崎なんとかという小説家を軸に進められます。収録作は下記の通り。
- ユーチューバー
- ホテル・サブスクリプション
- (タイトル忘れた)
- ユーチューブ
3つめのタイトルを忘れてしまったのは、いまこのブログを書くちょっと前に妻が読んでみたいというので貸したからです。隣の部屋にとりにいけばすむ話なのですが、それすらもしなくてよいだろう、という確信があります。
まず、本書では、20代でデビューして成功した小説家である矢崎が、ホテルに滞在しています。30代だか40代だか50代の女性と一緒に時間を過ごします。もうこの30代だか40代だか50代の女性というフレーズが村上龍っぽいですよね。ワインを飲んだり、DVDを見たりするのですが、基本的には矢崎がどうでもよいと考えている印象があります。そのホテルで「世界一モテない男」を自称する男が、自身のユーチューブチャンネルに出てもらえないかと矢崎に交渉します。
矢崎はなぜかわからないのですがそれを快諾し、自身の女遍歴を語ります。「〇〇という女がほんとうに普通でよかった」みたいな評価が村上龍っぽいのですが、この小説に書かれたことが事実なのかどうか、もはやどうでもよいです。
で、村上龍といえばかつてはW村上と言われたこともあり、文学的評価と期待がかなり高かった作家ではあるのですが、『五分後の世界』『昭和歌謡大全集』『半島を出よ』あたりから文学者としてはガス欠になっていったような感じがあります。村上春樹がノーベル賞受賞を毎年噂されていますが、村上龍にそういう話ないですもんね。本書で川端康成文学賞あげてほしい。
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本作では、そうした文学者としての自身の世間的な評価もきちんとわきまえつつ、すべてをどうでもよいと思っているかのような筆致がなんとも新しいです。ポイントは「若い頃に売れたけどいまは忘れられた作家」じゃないところですよね。村上龍は「若い頃に売れて文学的にも将来を嘱望され、テレビにも出るような有名人だけど、文学的には完全に終わった作家」なわけです。収録作のほとんどが文芸誌、それも全部バラバラの文芸誌初出で、版元も幻冬舎というのが面白いですよね。狙ってやったんじゃないのか、という気もします。文壇ワレオラ〜という気概を感じます。
村上龍の熱心な読者であれば、戦争やテロなどを扱った作品や、猟奇的な事件を扱った作品のほかに、『ラブ&ポップ』『テニスボーイの憂鬱』などの、しょうもない話を面白いと思ったことがあるでしょう。本書はその系譜の最終局面という感じがします。
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おりしも後期の仕事という概念を提出した大江健三郎が亡くなりましたが、本作を読んで「村上龍は死ぬんじゃないか」という感想を覚えた人は多いでしょう。生物として死ぬのはもっと先かもしれませんが、少なくとも文学者としては「遺言書」に近い本ですよね。
遺言書を読む機会というのはほとんどないので、一度でも村上龍の本を読み、面白いと思ったことがある人は、ぜひ読むべきだと思いました。終わり。