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『はてしない物語』の後半は異世界転生モノだった

高橋文樹 高橋文樹

この投稿は 1年 前に公開されました。いまではもう無効になった内容を含んでいるかもしれないことをご了承ください。

オーディブル読書シリーズです。『はてしない物語』は映画『ネバーエンディングストーリー』を子供のときに見ていたのでわざわざ原作見るまでもないかと思っておりましたが、Audibleに入っていたので聞いてみました。

はてしない物語 上 (岩波少年文庫)

価格¥836

順位9,414位

ミヒャエル・エンデ, 上田 真而子, 佐藤 真理子

発行岩波書店

発売日2000 年 6 月 16 日

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本書は「本の世界の中と現実がリンクする」という設定を持っており、ファンタージェンという異世界の崩壊を食い止めるべく頑張っている勇者アトレーユの姿を読者バスティアンが応援しながら読んでいるという構造になっています。バスティアンはいじめられっ子で、『はてしない物語』を本屋から盗んで学校に閉じこもり、読み耽っています。

虚無によるファンタージェン崩壊は、実は物語の力を信じなくなった読者の側によって引き起こされると言うメタ構造がわかり、バスティアンは一念発起、王女「幼心の君」に名前をつけることでファンタージェンを崩壊の危機から救います。

この上巻までが映画の原作となった部分です。幸いの龍フッフールは映画ではファルコンという名前になっていた覚えがあります。アルタクスっていうアトレーユの愛馬が沼に沈むシーンは涙なしではみられなかったですね。

で、肝心の下巻なのですが、ここから読者であったバスティアンがファンタージェンの世界に入り込んでしまいます。彼は英雄として迎え入れられ、幼心の君モンデンキントからもらった宝玉でどんな願い事も叶えることができるという涼宮ハルヒ状態になってしまうのですが、願いを叶える代償として、現世での記憶をどんどん忘れていきます。外見も美しくなり、砂漠で出会った最強の獅子からめちゃくちゃ強い剣ももらい、たくさんの部下を得て、だんだん調子こいてきます。

最終的には幼心の君の宮殿を奪って自分がファンタージェンの皇帝になろうとまで思い上がるのですが、この過程が「なんかこいつムカつくなぁ」という読後感をもたらします。次々に力を得て思い上がっていき、親友だったはずのアトレーユとも決別するあたり、闇落ちの定番路線として非常によくできていますね。

終盤、自分のあやまちに気づいたバスティアンが元の世界に入るべく模索するというクライマックスを迎えます。「物語と想像力を大事にする人々の心がファンタージェンを救う」という設定が、読書好きにはたまらない設定ですね。

それはそうと、異世界転生モノとして考えると、最近のなろう界隈で量産されている異世界転生モノは別に元の世界に帰りたいとかまったく思っていないところが特徴で、これは読者のニーズをしっかり掴んだ結果なんでしょうね。

もし『はてしない物語』を現代風にアレンジするとしたら、「現実世界では陰キャだったバスティアンが物語世界で無双する」という設定はそのままだとしても、次のような変更が必要でしょう。

  • バスティアンは闇堕ちせず、その力を有効に活用してファンタージェンの問題を解決する。
  • バスティアンは現実世界に帰らない。

そうなると物語の主人公の成長はないわけですが、いわゆる異世界転生モノにする場合はどちらかというと現実世界での悲哀を慰撫するというか、クソみたいな現実とはオサラバというバーチャル自殺・死後の世界みたいな需要を満たす必要があるんでしょうね。こういうのはきっと世相の移り変わりに応じるので、いつか「特定の国の特定の世代の人が異世界転生を夢見ていた」という分析がなされることでしょう。

なんか暗い話になってしましましたが、『はてしない物語』自体はおもしろく、ファンタジー要素の典拠としても非常に優れているので、ぜひ読んでみてください。終わり。

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