数年前に「永遠の命を追求する人たち」をテーマにしたドキュメンタリー番組を見たのですが、番組内で「アメリカには生まれ変わりについて40年以上研究している科学者がいる」という情報を得てからずっと気になっていた本がありました。『転生した子供たち ヴァージニア大学・40年の「前世」研究』(教本社)として訳書も出ているらしいのですが、絶版で手に入らなかったので、その弟子筋に当たる人が書いた本『リターン・トゥ・ライフ 前世を記憶する子供たちの驚くべき事例』を読みました。「ついに読んだ」という感じです。
リターン・トゥ・ライフ ― 前世を記憶する子供たちの驚くべき事例
価格¥2,420
順位524,173位
著ジム・B・タッカー
翻訳大野 龍一
発行ナチュラルスピリット
発売日2018 年 11 月 11 日
この本の主な構成は次のようになっています。
- 前世研究に関する導入
- アジアでの事例集
- アメリカでの事例1
- アメリカでの事例2
- アメリカでの事例3
- 有名人の生まれ変わりという定型例
- 犯罪被害者・非業の死者の生まれ変わり
- 量子力学による説明
- 夢の世界と超能力
大体9章構成になっているのですが、中間の大半(というか本書全体)が事例集となっています。生まれ変わりを主張する人(だいたいは6歳以下の子供)の証言がいかに正しいかがつらつらと書かれていきます。たとえば、「ロジャーっていう名前で飛行機に乗っていた」と子供がいえば、実際に第二次世界大戦でロジャーという名前の飛行士がフィリピン沖で戦死していたことがわかった、とかそんな感じ。ここらへんは奇跡体験アンビリーバボー的なエピソード集ですね。
事例は最初アジアの例が多く紹介されるのですが、その原因が輪廻転生が広く共有される仏教の影響であることは著者も認識する通り。キリスト教圏であるアメリカでの事例紹介が続きます。
この個々のエピソードやパターンについては特に何かを思うところはないのですが、本書は唐突に「量子力学」の話を始めます。
「生まれ変わりの状況証拠がたくさんあるのはわかったが、その科学的原理は?」と説明してほしくなるのが人情であり、それに先回りする形で著者は説明を始めるのですが、いきなり量子力学が出てきます。量子力学は量子(原子や光子などの微小な粒)の物理現象を説明するための学問ではありますが、相対性理論によって古典力学を根底から覆したというか、古典力学では説明不可能だった現象を説明できるようになりました。不確定性原理とか、量子もつれとか、聞いたことがある人も多いと思います。
本書ではこの量子力学がいかにして古典力学を壊したかについて説明したあと、やや唐突に「それゆえに宇宙は心という超越的なものの一部である」という唯識論的な話を始めます。で、「人類は巨大な共通の夢を見ている」というこれまたユング的な話を持ち出してきて、「生まれ変わりの人は超能力が強い傾向がある」など、だんだん雲行きが怪しくなってきます。
つまるところ、生まれ変わりの科学的な説明は一切なされていないのですね。
この点はちょっと残念ではあったのですが、最近のタイムリーな関心としては「ここでも量子力学か」という発見が面白かったです。最近の自己啓発・スピリチュアル界隈では「量子力学」が本来の意味とは違った形で導入されています。
さきほどもの述べたように、『ザ・シークレット』が自己啓発やスピリチュアル界隈に普及させたのが量子力学を持ち出す考え方です。少し引用してみましょう。
> 宇宙は本質的に思考から発生しました。量子力学や量子宇宙学がこれを確認しています。私たちの周りの物質も凝固した思考から出来ているのです。究極的には私たちは宇宙の源です。(『ザ・シークレット』)
「信念を紙に書いて、声に出せば、夢はかなう」そんな自己啓発を信じすぎた人たちの末路
やはり、量子力学でよく引用される「不確定性原理」や「シュレーディンガーの猫」が説明しようとした量子の状態を確率的に予想する非決定論的なアプローチが、「世界は心次第」「ひきよせの法則」みたいなエクストリーム解釈をされやすいんでしょうかね。しかも、量子力学に関わる知の巨人はたくさんいるので、「アインシュタインやフォン・ノイマンも世界は認識次第だと言っていた!」と権威づけしやすいですからね。
なんにせよ、普通の人間は量子力学についてあまり知らないはずなので、専門的に信頼できるバックグラウンドを持たない人が「量子力学」とか言い出したらまず疑ってかかるのが2020年代のムーブとしては正しいのではないかと思います。おわり。