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政情の変化で陽の目を見たプラトーノフ

高橋文樹 高橋文樹

この投稿は 5年半 前に公開されました。いまではもう無効になった内容を含んでいるかもしれないことをご了承ください。

思い出し書評シリーズです。今回取り上げるのは岩波文庫の『プラトーノフ作品集』。

プラトーノフ作品集 (岩波文庫 赤 646-1)

価格¥1,012

順位132,457位

プラトーノフ

翻訳原 卓也

発行岩波書店

発売日1992 年 3 月 16 日

すでに絶版。安かったり、高かったり。

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プラトーノフは旧ソ連の作家ですが、共産圏にありがちな「反体制的なので陽の目を見ない」というパターンを送ったようですが、雪どけ以降の規制が緩くなった時期に再評価された作家だそうです。

この短編集はどれもよく、「ジャン」「粘土砂漠(タクイル)」が出色のでき。僕は砂漠に対して強い憧れがあるのですが、それを差し引いてもこの作家ならではの独特な描き方がよく表れています。

「ジャン」という短編は主人公の名前ではなく、共産党の命令によって僻地に派遣された主人公が面倒を見ることになった民族の名前です。この少数部族は砂漠の中を生きるか死ぬかのギリギリのラインでかろうじて彷徨うように生きています。ハゲタカが頭上を通りかかったら生きるのを諦めてしまうような、極限の状態でかろうじて生を繋ぎます。生きる意志があるかというと、そういうわけでもなく、ほとんど諦めています。

しかしプラトーノフの作品の不思議なのは、これほど絶望的な状況にあっても不思議と乾いた明るさがあるところ。ジャンはどんどん死んでいくのですが、なにか得もいわれぬ頼り甲斐のようなものがずっとあって、なんとかなるんじゃないかと思わせてくれるしなやかさがあります。

こうした絶望的な状況を、英雄的な熱さではなく、静かにじっと耐えるようにしてやり過ごす描き方は他の作家ではあまりみない。それがプラトーノフの優れたところです。「粘土砂漠(タクイル)」もそんな感じの、不思議な読後感をもたらす小品です。

誰しも生きているうちにふと、「死ぬのが怖いなぁ」という不安にとらわれるときがあると思うのですが、プラトーノフの作品はそうした人生のいかんともしがたい頼りなさに添え棒をしてくれるような優しさがあります。終わり。

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