このブログを開始したのは2008年、すでに十年以上経つのですが、よく考えたらブログ開始以前に読んだ本について書いていなかったので、面白かったやつを順次紹介していきます。第一弾はスティーブン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』です。
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まずどっちが作者名でどっちがタイトルかわからない本作ですが、最強の出オチ小説と呼んでいいパンチの効いたストーリーラインを持っています。
エドウィン・マルハウスとは、11歳の若さで夭逝した天才小説家(と語り手が呼んでいるだけ)で、残した作品の名前は「漫画」。天才エドウィンの人生の足跡を辿る伝記形式で本作は進んでいきます。
「漫画」は原作の英語だと”Cartoon”みたいですね。なんかもうこの時点で「ふざけてるなぁ」という感じなのですが、語り手も同い年なので、さらにふざけています。
物語はエドウィンが2歳からシェイクスピアを暗唱したとかそんなくだりから始まるのですが、そもそもなぜこの語り手はこんなにもエドウィンに執着するのか? という点がこの小説のキモとなります。エドウィンに年上の好きな人ができたときも、猛烈に反対します。
そう、勘の良い方はお気付きの通り、いわゆる信用ならない語り手というやつですね。この用語は昨今の文学作品でしょっちゅう言及されますが、「信用ならないというのはこういうことやで!」と言わんばかりに信用ならないです。
このブログにある「好きな言葉」シリーズでも取り上げていますが、扉辞に掲げられた作中引用が本作を象徴しています。
ふう! 伝記作家って、悪魔だな。
スティーブン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』
そう、伝記作家というのは悪魔なんですね。なにが悪魔かというと、自分の「作品」である対象の作家が自分の作品をよく見せてくれるのならが、事実を改変することも厭わないほどに。
あまり語るとネタバレになってしまうのですが、とにかく読書通っぽい人に「信用ならない語り手」とかいきなり言われてビビってしまった時も、『エドウィン・マルハウス』を読んでおけば「ああ、あれね!」とすぐに気づくことができるので、21世紀文学を語るにあたってぜひ読んでおきましょう。終わり。