先日発売された大森望編『SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録』をご恵投いただいたので、その感想ならびに僕が参加したゲンロンSF創作講座に参加する場合の戦い方を説明しようと思います。
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印象に残った講義
さて、ぼくは全講座を出席したので、この本に書かれている内容のほぼすべてを知っております。個人的に面白かったのは大森先生の追記パート(各回のまとめ、あとがき)と「どのように編集されたか」ですね。あとは本書の必読パートを羅列します。
SFの歴史
第一回の講義でSFの歴史について大森さん、東浩紀さん、小浜徹也さんの三人でトークをしていたのですが、日本SFの歴史から、SF文学史などなど、通時的に知ることができます。ぼくは新しいジャンルに触れたときにざっと歴史を学ぶようにしているのですが、この講義でとっかかりが掴めた気がします。ちなみに、このときゲンロンの入り口で売っていた本で参考になったものがあったのですが、タイトル失念。
長谷敏司さん、冲方丁さん、宮内悠介さん回
この三回は僕に「商売としての小説家」という側面をよく知らしめてくれた回でした。それぞれ注目した部分は違うのですが、長谷さんは小説の「商品としての完成度」へのこだわり、冲方さんはその破天荒(?)なイメージとは裏腹な地道に作品を作り上げていくスタイル、宮内さんは本書に掲載されていないのですがいわゆる企画書を編集者に提出するというビジネスライクなスタイル、などが参考になりました。
僕は「小説家志望」つまり、プロとしての仕事をしたことがない物書きの人と話したときに「なんか商売の話ばっかするな」というイメージをもたれてがっかりされる(そして暗に俗物としてに批判をうける)ことがあるのですが、僕からすると、それはいままで小説に人生を捧げたことのない人間にありがちな態度なわけです。小説家は霞を食っていきているわけではありません。もし自分が小説一本で生きていこうと思ったら、まずは売れないといけないわけです。単行本1万部売るのがどれだけ大変か。毎年1冊単行本出したって、年収100万ぐらいですからね。そりゃ商売の話をしますよ。
このお三方はそうした「商売としての小説家」という側面にフォーカスした話をしてくれたので印象深かったです。
新井素子さん回
新井さんはいわゆる天才型で、話としては全然参考にならないのですが、僕も天才を自認しているので、ずっと「わかる」って思ってましたね。「わかりみ」がすごかったです。あー、属性「選ばれし巫女」はそうするかー、みたいな。Windows 10が天敵とかいう話もすごくわかりました。僕も何も考えないでMacのアップグレードしてDockerコンテナがぶっ壊れて1日棒に振ったりしてます。
SF創作講座での勝ち方
SF創作講座第二期はすでに満席となったので、僕が売り上げに貢献する方法はまったくないので、とりあえず第二期の受講生に対して勝ち方を教えようと思います。僕はリーグ2位、ゲンロンSF新人賞2位という万年2位だったのですが、まあそれなりに勝っただろうということでその秘訣を伝授します。ちなみに1位は高木刑さんです。
https://twitter.com/txkxgxkxi/status/842437713454280704
第一回は「老害と海 なにをみても俺を思い出す」というタイトルで若干すべっていた高木さんですが、第二回以降はセンスのある梗概を出しまくっていました。なんか中世史とかキリスト教、アメリカ開拓史、昭和初期など、変な時代とSFを組み合わせるのがうまかったですね。年収は手取りで3,268,000円だそうです。
秘訣1 センス・オブ・ワンダーがあること
SFといえば「突飛な設定」がそのジャンルの魅力の一つなのですが、なんだかんだいって高く評価される梗概はセンス・オブ・ワンダー、つまり読者を驚かせるような設定の作品が多かったです。講師の方はみんな一流のプロ作家なので、総評として「みんな突飛な設定あげてきてすごいけど、もうちょっと作品としてちゃんとしよう」ということを言われるのですが、結局のところ選ばれるのは突飛な設定のやつでした。
僕も途中までは「そうはいっても普通に面白い話を書けば大丈夫だろう」と考えていたのですが、結果が出ず、突飛な設定を導入するようにしたら選ばれました。
ただ一点、注意が必要なのは「ふざけている、あるいはネタ的なもの」「メタフィクションっぽいもの(SF創作講座、あるいは創作する自分そのものを題材にしたもの)」「政治的・ジェンダー的なもの」は選ばれない傾向が強かったように思います。『むかし俺のことを好きなブスがいて』とかいうジェンダー的にアレなやつはダメってことですね。また、僕が提出した三行梗概みたいなアクロバティックなものも選ばれません。
秘訣2 わかりやすいこと
これはプロを目指す以上あたりまえなのですが、わかりにくいものは選ばれませんでした。設定がいかに突飛でも、意味がわからないものはダメです。
この「わかりにくさ」というのは、設定が複雑かどうかというより、その物語の結末について受け入れにくいということに直結している気がします。「なにが受け入れやすいのか」というのは次の秘訣と関係しているのですが、「登場人物が全員不幸になりました」みたいな話を読まされても、「ええっ……」という感想しか生まれないので、ようはそういうことです。
秘訣3 作品としてきちんと完結していること
提出するものは小説なので、作品として完結している必要があります。提示するストーリーが単純でも構わないのですが、それは設定と呼応している必要があります。複雑な設定をこしらえて、「こんなすごい世界があります」と訴えても、作品として完結していない場合、「それで?」という反応が返ってきます。
ここをきちんとやらなかった作品は実作講評で低い評価になっていました。とくに、評価を下す人はみなさんプロなので、「可能性を感じる!」という甘い感想はなかったですね。
以上、僕が一年にわたってSF創作講座で気づいた秘訣です。あと、秘訣といってよいのかわかりませんが、「文章力」がある人はわりと高評価でした。ただ、文章力は実作を提出するまでわからないのと、なまじ文章力がある人の方が冗長な梗概になりがちな傾向があるので、「自分は突飛なアイデアはないけれども文章力はある」という自負を持つ方は、早めに梗概選出されると、「でもこいつ文章うまいからな」という判断が働く可能性があります。
その他のハック
飲み会に参加する
この講座ではほぼ毎回飲み会が開かれていたのですが、開始は夜11時。東京23区に住んでいない人にとっては終電間近なわけですが、僕は諦めて参加するようにしていました。解散するのが朝4時半だったので、4:56分の山手線に乗るために冬のホームで待つのは辛かったですね。
小説家を志す人たちと飲む時間は楽しいということもあるのですが、講師の先生や大森先生が参加することもあるので、ぜひ毎回参加することをおすすめします。たまには地獄みたいな回もありますが、それはご愛嬌ということで。飲みニケーションが苦手な人、門限があってそもそも参加できない人もいるとは思いますが。
当然お酒の席ですので、トラブルもありえますが、仮に起きたとしても、文学者なのでしょうがないですね。殴り合いが一度もなかったので、実に健全な集まりだったと思います。僕の主催する破滅派ではよく号泣、絶縁などが起きています。
陳情する
飲み会の席などでよく行われていたのですが、なにか不満などがあった場合は、クローズドな環境で訴えてみると変わることがあります。僕が行った陳情としては、第四回ぐらいに大森先生に「梗概の規定文字数を律儀に守った人より、大幅にオーバーした人の方が選出されやすい傾向にある」という田中正造ばりの訴えですかね。それまでの三回で梗概の文字数を守った人で選出されたのが1人しかなかったのですよ。僕はこの統計データをGoogleスプレッドシートにまとめた上で大森先生に提出しました。
その結果、梗概の文字規定にペナルティが課され、結局は形骸化することになったのですが、訴え以降はわりとみんな文字数守ってましたね。
なにかやる
受講生の義務としては「梗概を提出する」「梗概が選ばれたら実作を提出する」ということだけなのですが、特に意味はなくてもソーシャル声出し的なことをやっておいた方がいいです。これはゲンロンSF講座に限らず、作家のようなクリエイティブ業で食っていこうと思っている人の大半にいま求められていることです。
成功例といえば、本書でも挙げられていた「ダールグレン・ラジオ」というツイキャスです。これはあるゲンロンのファンが勝手に始めた企画だったのですが、SF創作講座内ではある一定の評価を得ていました。ようはこういう活動をしていると、「なにをすれば人の注目が集まるか」がわかってくるでしょう。
ちなみに、ダールグレン・ラジオの主催者のロバという人は第二期に参加するようなので、撃っていいのは、撃たれる覚悟があるやつだけだ
という言葉を胸にボコボコに批評しようと思っています。
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というわけで、本書の感想ならびにゲンロンSF創作講座に関する宣伝を終えます。第二期の人には有名な人も参加するという噂なので、楽しみにしています。