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『「絶滅の時代」に抗って』を読んだ

高橋文樹 高橋文樹

創作のアイデアとして動物の絶滅について調べており、その過程で『「絶滅の時代」に抗って 愛しき野獣の守り手たち』という本を読みました。

「絶滅の時代」に抗って――愛しき野獣の守り手たち

価格¥4,180

順位610,143位

原著ミシェル・ナイハウス

翻訳的場知之

発行みすず書房

発売日2024 年 7 月 12 日

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本書はミシェル・ナイハウスという科学ジャーナリストが書いた本で、帯にもある通り生物多様性保全という概念、つまり「いろんな動物がたくさん存在していることがよいことである」という通念が当たり前になるまでの歴史的経緯をまとめています。

まず、本書では分類学の父リンネから始まるのですが、そもそも「どういう動物がいるの?」ということに疑問を持ち始めてそれを体系化し始めたのが18世紀ぐらいです。これは西欧社会つまりキリスト教圏に特有の考え方らしいのですが、この世界は神が作った完全な社会なので、その被造物である動物がいなくなるわけがないという思想があったようです。たとえ現代人が「最近〇〇という動物を見ないな」という感想を持ったとして、ではそれが「〇〇は絶滅した」という結論に至るかというと、そんなことはありません。研究機関の発表などが報道につながって初めて「そうか、〇〇はこの地球上から消えてしまったのか」と感じるに至ります。当時の人としてはなおさら「〇〇はこの世界のどこかにいるのだろう」と思いがちだったのでしょうね。

19世紀アメリカになるとバイソンが絶滅の危機に瀕することになります。ネイティブ・アメリカンによる狩猟では特に影響がなかったけれども、銃と馬が導入されたことでその数を劇的に減らしたとか。最終的にウィリアム・ホーナデイという人が奔走してバイソンの再繁殖に成功します。ちなみにこのホーナデイは黒人(オタ・ベンガ)を動物園に展示した人でもあるので、動物には優しくても他人種には冷酷だったようです。

他にも動物を絶滅から救おうとした人々が章立てで紹介されます。

  • 鳥はもっともその種が絶滅の憂き目にあった脊椎動物で、たとえばDDT(殺虫剤)の過剰な使用によって大ダメージを受けた。
  • 『すばらしい新世界』のオルダス・ハクスリーはイギリスの有名一族出身らしく、その父と兄は著名な生物学者で、兄のジュリアンは生物保護の組織化に晩年まで尽力する。
  • 川の人権が認められた話も紹介されています。判決にいたる思想的背景が深掘りされてます。

すばらしい新世界〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

価格¥990

順位28,271位

オルダス・ハクスリー

イラスト水戸部功

翻訳大森望

発行早川書房

発売日2017 年 1 月 7 日

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個人的に興味を惹かれたのは8章の「サイとコモンズ」です。何年か前にキタシロサイの最後のオスが死んだというニュースを聞いて寂寥感を覚えた記憶がありますが、サイは密猟によってその数を劇的に減らした野生動物です。で、この章では野生動物を公共資源と考え、それをどう維持していくかに奔走する人々が描かれるのですが、ギャレット・ハーディンの主張した「コモンズの悲劇」とそれに反論したエリノア・オストロムによる公共財の管理可能性研究が紹介されます。このオストロムの研究とそれを発展させたデジタル・コモンズについての研究は今後関連情報を集めていきたいと思っています。

本書を読むと、人類が動物の種類の把握してそれらが自分たちのせいで絶滅しかけていると把握しはじめたのは結構最近だということがよくわかります。ユヴァル・ノア・ハラリなんかは「人間の進出した地域では大型哺乳動物が絶滅していっている」と書いていた気がしますが、ホモ・サピエンスが活発化した三万年にわたる期間と、人類の科学文明が急速に発達したこの数百年はまったく違った淘汰圧が地球にかかっているように思います。

日本でもメダカが絶滅危惧種になったことは広く知られていますが、我々罪深き人類が誕生したことで動物が絶滅しまくっていることは事実。そんな中でもがんばってる人たちがいると知っておくのは希望になるんじゃないでしょうか。

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