前回から始めたAudible書評です。今回取り上げるのは『エネルギーをめぐる旅——文明の歴史と私たちの未来』です。
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タイトルにも書いた通り、これはけっこうすごい本でした。ユヴァル・ノア・ハラリは『サピエンス全史』で日本でも大ブレイクしましたが、ぶっちゃけ僕はこちらの『エネルギーをめぐる旅』の方が面白かったです。『サピエンス全史』はいまいちでした。
著者の古舘さんは日本石油に入社したいわゆるサラリーマンで、その後も個人的にエネルギーに関することを研究し続けていたようです。言うなれば、在野の研究者でしょうか。アカデミアに属さないでこんなに浩瀚な書籍を物したというのは大変なことですよ。すごい方ですね。
本書はエネルギーという観点から人類史を総括するのですが、歴史の授業で学ぶような木→石炭→石油というような「エネルギー革命」ではなく、もっと原初的な部分から紹介しています。ざっと興味深かった要点は次の通り。
- 人間は火で調理することにより、咀嚼・消化に費やすエネルギーを別の部分、つまり脳に費やせるようになった。チンパンジーは一日6時間も咀嚼している。
- 農業とはつまり「日光エネルギーの利用」である。
- メソポタミア文明時代(紀元前1300年頃)から人類は自然破壊をしており、建設のために森林を破壊していた。なので、ギルガメシュ叙事詩には森林を守る怪物が出てくる。地中海でオリーブ(=低木)ばっかりなのは船を作りすぎたせい。
- 肥料の減量となるアンモニアを窒素から生成することは、自然界からのエネルギー抽出を意味する。これは人口増大に大きく寄与した。
特に第一部が面白いですね。
アダムとイブの失楽園神話はアルメニアのエレヴァン(だっけ?)近郊の実り多い土地(=楽園)を追われて狩猟民族から農耕民俗になった悲哀を象徴しているとか、そういう歴史的な解釈が面白かったです。
また、人類に氷河期を乗り越えさせた火の利用法についても興味深い仮説が紹介されています。「落雷で燃えた木などの偶発的な理由で発生した火を使って、長い年月をかけて人類は火の利用方法方を覚えた」という説がありますが、その偶然性(僕は落雷で火がついた木をいままで一度も見たことがない)を考えると、現実的ではないそうですね。それよりも、常に気軽に火が手に入る場所があり、そこで火の便利さを知り、こんなに便利な火をいつでもおこせるようになろう、と人類が学んだのではないか。実際、アゼルバイジャンにはヤナル・ダグという山があって、天然ガスかなにかが山の側面から吹き出し続け、ずっと火がついているそうです。こうした場所で人類は火の便利さを知り、それを持ち運ぶことに思い至ったのではないか。ちなみに、人類に火をもたらしたプロメテウスが受ける責め苦(鳥に肝臓を啄まれ続ける)と似た鳥葬の風習がこの地域にはあったそうです。
最近、ソドムとゴモラを滅ぼした「神の火」とは隕石だったのではないか、という調査が発表されましたけど、神話の類に書かれたことが事実だったとすると、面白いですよね。
とにかく、本書では「エネルギー」の歴史と人類の文明におけるその本質について、かなり幅広く学べることと思います。
ちょっと舐めてましたが、『銃・病原菌・鉄』とかが好きな人にはおすすめ!
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