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SF界トップランナーによる異世界転生小説〜ジーン・ウルフ『ウィザード・ナイト』

高橋文樹 高橋文樹

この投稿は 5年半 前に公開されました。いまではもう無効になった内容を含んでいるかもしれないことをご了承ください。

全4巻の長編『ウィザード・ナイト』をつい昨日読み終えたのですが、なんと今朝になってジーン・ウルフの訃報が! もっとも尊敬する存命のSF作家だったので、いつか会えたらなと思っていたのですが、無念です。やはり、40歳も間近になると、尊敬する人が死んでしまいますね。R.I.P, Gene.

で、僕が読み終えた『ウィザード・ナイト』の話をしましょう。

申し訳ございません、このリンクは現在利用できないようです。のちほどお試しください。

これはいわゆるファンタジー小説です。舞台は中世のアーサー王伝説の頃、11世紀ぐらいでしょうか。記憶を失った少年エイブルは、ある日エルフリース(妖精界)に導かれ、そこでエルフの女王ディシーリに見初められ、騎士として一気に成長します。母なる剣エテルネを探すよう言われたエイブルは、騎士サー・エイブル・オブ・ハイハートとして成長し、ドラゴンや巨人退治といった冒険の人生を歩みます。

ここまで読むと王道のファンタジー小説っぽいのですが、この小説の語りナラティブは「ほんとうの兄ベンに向けてエイブルが書いた手紙」という形式を取っているのですね。ちょっとずつ出されてくる情報によって、どうやらエイブルはアメリカの少年で、ある事件(これは最後にわかる)によってこの異世界へと呼ばれたのだ、ということがわかります。そう、つまりこの小説は異世界転生小説なんですね!

舞台となる世界は七つの世界に別れており、人間の住むミスガルスル、その下のエルフが住むエルフリース、上には神々が住むスカイ、最下層にはニブルヘイムといった具合です。そう、中世ファンタジーに慣れ親しんだ方ならわかる通り、北欧神話とアーサー王伝説に登場するものがミックスされた感じの世界観です。ミスガルスルがミッドガルド、アーンソールがアーサー王(もしくはその父ユーサー・ペンドラゴン)といった感じ。ドラゴンとの戦いで瀕死になったエイブルをスカイへと誘うアルヴィットはヴァルキリーですね。用語集もついているので、読みながら楽しめます。

「ナイトⅠ」「ウィザードⅠ」それぞれに用語集がついていて微妙に内容が異なる。

いまはちょうどFGOとか流行っているので、騎士王伝説とか興味がある人はより楽しめるのではないでしょうか。

この小説では、それぞれの世界での時間の流れが異なるというのが重要なファクターになっていて、下の世界では時間の流れが相対的に遅く、上の世界では早い、という違いがあります。エルフリースで数日過ごすと人間界(ミスガルスル)では何ヶ月も立っていたり、スカイにいって何十年も過ごしたあとで人間界に帰ってきても数ヶ月しか経っていないとか、そんな感じです。

また、権力構造として「上の世界の住人は下の世界の神になる」というルールがあります。この構造がエルフリースとミスガルスルでねじれていることが、エイブルを冒険に誘う重要な要素になっているんですね。

ジーン・ウルフといえば、たぶん『新しい太陽の書』が一番有名でしょうが、僕は実のところ未読。『ケルベロス第五の首』や『デス博士の島』もそうでしたが、メカメカしい感じのSFというよりは、ファンタジーっぽい要素が絡んだ作品が多い印象です。語りなどに工夫があって文学性が高く、SF界でもっとも評価が高い作家の一人なのではないでしょうか。

実のところ、僕はSFの説明っぽい部分はあまり好きじゃないので、ジーン・ウルフのように「語りの外側に謎がある」タイプの小説が好みです。

もしまだジーン・ウルフを未読なのであれば、上で挙げた2冊がおすすめ。特に『デス博士の島その他の短編』は読みやすいです。

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気づいたのですが、ほとんど国書刊行会ですね。お財布に余裕がある時にどうぞ。それでは最後にもう一度、R.I.P, Gene.

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