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物語終わらせ力の光と影

高橋文樹 高橋文樹

この投稿は 7年半 前に公開されました。いまではもう無効になった内容を含んでいるかもしれないことをご了承ください。

読者としての僕はよく躾けられた農耕馬のようなところがあり、特定の事情がない限り、読了しなかったことがありません。マジです。どんなにつまらないと思っても最後まで読みきります。積ん読はしますが、途中でやめることはありません。

この読書傾向は漫画にも受け継がれており(雑誌は興味をひかれた時しか買わない)、漫画を二巻ぐらい読んだら必ず最後まで読みます。以前は近所の漫画喫茶を定期的に訪れて一気読みしていたのですが、子供が生まれたらそうもいかなくなったので、電子書籍などを駆使しています。そういうわけで、僕は電子書籍ストアの「1〜3巻無料!」というセールのいいカモにされていますね。『風夏』とかもぜんぜん面白くないと思っていますが、読み続けています。

なぜそんなことをするかというと、「物語の結末が気になるから」です。ストーリーに起伏がない作品でも、普通は登場人物の相関関係が結果的に物語として機能するので、それがどうなるのかを知りたくて読みます。心の底から「つまんないなー」と思っていても、です。この「知りたい」は楽しみだからとか期待しているからとかではなく、より根源的な衝動に根ざしている気がします。これは「本棚に並ぶ文庫が出版社レーベル順かつ著者名順になっていないと気持ち悪い」という感情と似ています。「探しやすいから」という合理性ではなく、「きっちりしているのが気持ちいい」という根源的な快楽。

これは僕がなんらかの精神的な疾患を患っているせいではなく、わりと人類に普遍的な感情——すべての人がそうなのではなく、多かれ少なかれ人にはそういう傾向があるという意味での普遍性——なのではないかと思っています。そう、物語はちゃんと終わっていないといけないのです。たまたま人生で出会った物語は、それが面白ければなによりなのですが、終わっていると気持ちいいのです。終わらない物語は気持ち悪いのです。『ネバーエンディング・ストーリー』も終わるじゃないですか。

ちょっと前置きがながくなりましたが、本題です。今日僕の家に漫画の最終巻が2つ届いていて、その2つの印象が正反対だったため、感想をばまとめます。

その1. 古谷実『ゲレクシス』2巻

評価: ★★★★☆

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古谷実は中学生ぐらいからずっと読んでいるので、はっきり言ってファンです。したがって面白かったです。物語を要約すると「平凡に生きる男がある日突然なぞの生物になってしまう」のですが、終わり方は投げっぱなしジャーマンみたいな感じで、変な木に「君だけ特別だったよ」と言われて人間に戻ります。が、わりと重要な点として、「中年が変な生き物になって元に戻れた」という物語構造は保っています。それがいいかどうかは別として、『オデュッセイア』と同じ「なんか色々あって戻って来た」型の構造です。

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何度か笑うポイントもあり、まあまあ面白かったです。妙に強い主張をする自信満々なバカ、無力な人間による計画とその失敗、極端な状況に出会い戸惑いつつもそれを受け入れる「普通の人」などなど、古谷的エッセンスがコンパクトにまとめられています。「いきなり凶悪な犯罪に巻き込まれる」という中期古谷的な感じもなく、ある意味で不穏さがなくなりはしていますが、独特なセンスを感じました。

また、特定の時期から青年誌を中心に見られるようになった「特定の商品(ex. エアマックス)を具体的に書く」という資本主義的写実性も健在で、表現としても熟練の安心感がありました。

その2. 花沢健吾『アイアムアヒーロー』22巻

評価: ★★☆☆☆

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花沢健吾は他に代表作がいくつかありますが、実は初読です。僕が書いているゾンビ小説『はつこいオブ・ザ・デッド』(連載中断中)と同時期に連載開始したこともあって、読み始めました。

最初は「ゾンビが出てくるまで丸々一巻を費やす」という斬新な手法が面白かったように思いますが、いかんせん連載期間が長すぎましたね。いくつかの謎(巨大なゾンビ集合体とは? なぜゾンビによって意識が繋がるのか? 比呂美はどうなった? スペイン編なんだったの?)が解明されないまま終わってしまいましたし、オチも映画『アイ・アム・レジェンド』の冒頭に戻ったような印象でした。マネキンや看板に話しかけたりするのもまんまパクリだったので、もうちょっと工夫してもよかったのではないでしょうか。

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一番問題だと僕が思うのは、物語が終わっていない点です。この漫画は、一巻と最終巻であんまり状況が変わっていないんですよね。「冴えない漫画家がゾンビによる世界崩壊に巻き込まれて生き残った」という点では、一・二巻ぐらいから同じなわけで、ずっと生き残り続けています。なので、物語としてはあまり進展がないので、終わってない感じが強いです。秀雄と比呂美、そして小田さんを取り巻く感情の起伏が中盤〜終盤にかけての鍵だったんですが、罪の意識に気づいて巨大化した比呂美の決着がどうなったのかもよくわかんなかったです。他の作品を読んでいないのでなんとも言えないのですが、Amazonレビューで低い評価なのもわりとうなづけます。

もっとも、この「終わらせづらい」というのはゾンビものの宿命で、ロメロなんかもゾンビ三部作の最後の方は「ゾンビとの共存は可能か?」というわけのわからない問題設定になっており、ちょっと置き去りにされた感じはあったりします。まあ、難しいんですよね、ゾンビ。「ゾンビものとしてスタートしたのに最後の敵は人間だった!」とか、「ゾンビは我々人類の罪が生んだ存在だった!」とか、そういう凡庸な終わらせ方が定番です。そもそも、ゾンビってこの世にいないですから、深く考えてもしょうがないんですけどね。

両者の比較

まとめるとこんな感じになります。

ゲレクシス アイアムアヒーロー 補足
長さ 短い 長い 全体の長さが長いと、当然ながら完結への期待値があがる。
物語構造 完結している 完結していない 巧拙はともかく、物語が完結しているのがよい。
僕の評価 高い 低い 僕は古谷実作品をずっと読んでいるので、その点は差し引かれたし。
Amazonの評価 高い 低い アイアムアヒーローのファンは怒っている人(星1つ)が多かった。

というわけで、期せずして僕の信念である物語はちゃんと終わっているべきという考えがあらためて補強されました。今後も最後まで書き切ろうと思います。『はつこいオブ・ザ・デッド』は4月中に連載を再開する予定です。

 

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